混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 練兵を部下に任せて、リリの案内でイライザは階段を登った。息が切れるような階段だったが、イライザはリリに置いていかれないよう必死で着いて行った。
 リリの方が、当然健脚なのだが、イライザを気遣って、時折立ち止まり、歩調を合わせてくれていた。

 見張り台に届くと、一気に視界が開け、港が一望できた。

 その光景に、イライザは言葉を失い、眼前に広がる景色に息を呑んだ。

「イライザ・クリフトン女史ですら、この塔からの光景には言葉を失うようだね」

 満足したようにリリが言った。

「見たものを、いくら言葉を尽くしても、感じたまま伝えるだけの筆力が無いのがもどかしいです」

 景色から視線を動かさず、イライザは己の無力さを素直に語った。

「あれだけの言葉を尽くすあなたでも、そのように思うものかい?」

「私が伝えられたと思えているのは、ほんのひとにぎりなのでは無いか、そう、思うけど、でも。こんなに素敵な場所がある、こんな人たちが居て、世間を支えてくれているという事を、示す事ならできるかもしれない……そんな風に、思っています、きっかけになれば、と」

 視点をリリに移して、イライザはつぶやくように言った。

「でも、違うの、本当は、私が、私自身が物見高いだけなんです、見て、聞いて、すると、今度は言葉があふれてきて、書かずにはいられなくなる、こんな私に、何かを書き残す資格なんて無いのかもしれません」

「でも、あなたは書くことをやめられないのではないか、と、思うけどね」

 イライザは、そんな風にリリに真っ直ぐに見つめられて、少しだけ照れた。

「そんな貴女に、ひとつ頼みたい事があるのだけれど」

 リリが、とても真剣な目をして、イライザに言った。
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