混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 後は、いくつかアレンが言葉を投げかければ、いいように解釈してくれるだろう。

「つまり、この縁談は、あなたにとって都合が悪いと?」

「それは、ご想像にお任せします」

 ほら、嘘はついてない。アレンは心の中で舌を出しながら、否定も肯定もしない。

「まあ、私とイライザの婚姻を望む声もありましたからね」

 これも、嘘では無い。実際、そういう意見は出ていた。イライザとアレンは、互いを見ながら、苦笑したものだが、当事者同士の知識が不足していれば、勝手に脳内で『下衆な方へ』解釈してくれる事だろう。

「それは……何とも残念でしたね」

「いえ、それはいいんですよ、彼女は、まあ、十人並の容姿ですし」

「そうでしょうか? 私の見立てでは、美女の部類に入ると思いますが」

 まさか、その美女が目の前にいるとは思っていないのか、うっとりした様子でマイケルはイライザ(の、ふりをした女装したアレン)を思い浮かべている。

 わずかに、怖気のようなものを感じながら、自分でふった話題とはいえ、男から『美女』呼ばわりされる事はぞっとしないな、と、思いながら、アレンは笑顔を作った。

 その笑顔を見て、イライザを思い出したのか、一瞬マイケルが何かに気づいたような顔をしたので、アレンはとっさに話題をそらそうと声をあげた。

「まあ、彼女自身の魅力をもって、求婚に及んだのではないだろう、と、僕などは思うわですが……」

「まさか! そんな事は」

「では、あなたはどう思っているんですか?」

 マイケルは、考えている事が表に出やすいようだ、と、アレンは思った。複数の女性と浮名を流すような男だから、もっとそつなく、腹芸もできる男かと思っていたが、それは見込み違いだったようだ。

 ……だとすると、マイケルから情報を引き出すのは難しいかもしれない。

「縁談と、会社の運営は別物ですよ」

 思ったとおり、とおりいっぺんの答えで、おもしろみが無い。アレンは、切り崩すきっかけを別に探す必要があると思い始めていた。

「……そうですね、失礼しました」

 で、あれば、用は無い、アレンはこれ以上の会話は必要無いと考え、中腰になろうとした。

「……ですが、私も、今回の縁談は少し急だったとは思っています」

 釣れた。今度こそアレンは確信した。
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