混戦クルーズ！ 造船王は求婚相手を逃さない

　イライザは、イザベラとしても、招待されていた。名にし負う女記者イザベラ・クリフトンと、ブルー・ムーン商会社長、ヘンリー・アトキンソンの一人娘、イライザが同一人物である事を、恐らく、ガブリエル・イザードは気づいていないのだ。

　イライザは、いつもの、取材の時のように、地味な灰色のドレスに身を包んでいる。

　並んで立っている、女装したアレンは、控えめに言っても、そんなイライザより美しかった。

「お願いだから、アレン、気を良くして縁談を進めるような事はしないでよ」

　眉をひそめながら耳元でイライザが言うと、アレンは、くすぐったいのか、身をよじりながら、きっぱりと答えた。

「どッ……どうして僕がっ！」

「あー、でも、私の替りに、ガブリエル・イザードと結婚してくれるならそれはそれでかまわないんだけど」

「そんなわけあるかっ！」

　思いがけず素に戻った野太い声をアレンがたてると、イライザは人差し指をたてて、『静かに』と、してから、言った。

「わかってる、仮にそんな事になったら、責任をもって助けるから」

　イライザの言う『そんな事』とはどんな事を指すのか、アレンは青ざめつつ、敢えて確かめる事はしなかった。

　かくして、ニセの令嬢（？）と、女記者は、しずしずと馬車に乗って進水式に向かったのであった。