混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 思いがけず、昨晩の事を反芻するように思い出しながら、ガブリエルはにやけそうになった自分の顔を両手でパシン、と、叩いた。

 ……いかんいかん、今は護衛に集中しなくては。と、熱くなった顔を冷ますようにふるふると振った。

 その時だった。リリの屋敷の前に止まった一台の馬車、その中から現れたのは、アレンであった。

 何故だろう? と、ガブリエルは不思議に思った。

 誰かがアレンに使いを出したのだろうか、しかし何のために?

 ガブリエルは、少し考えて、奇妙な事に気づいた。

 何故、アレンを呼ぶ必要があるのか、という事だ。

 イライザとイザベラが同一人物だという事を知っている者は今のところ当人達と自分、もし他にいるとしたら、それはブルームーン商会ララティナ港支部の者だろうが、だとしても、アレンとイザベラを結びつけて『この場所』に呼び出すとは考えにくい。

 まさか……。

 ふと、思い当たった一つの可能性に、ガブリエルは愕然とした。考えすぎだと思いたい。

 リリ・ドミニスと、ガブリエル・イザードは古い馴染みだった。

 ガブリエルは、リリの出自を知っている。互いに生きる世界は異なるものの、励まし合って生きてきた。

 ガブリエルにとってリリとは、親族に近く、リリもまた、自分をそのように考えていると思っていた。

 ついこのあいだまでは。
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