ドッペル少年少女~生まれる前の物語~
悲しみの花嫁は炎に抱かれる
「……どうしよう」

自分にお見合いの話がきていると先ほど聞き、サンは困惑していた。

まだ会ったことのない人に、何かの感情を持つなど出来ない。それに、サンの心にはすでに別の人がいた。

(サク………おかしいわね。私、自分のお兄さんに恋してるんだもの)

サンは人より、感情を隠すのが上手かった。サクとの距離の取り方も上手く、回りから見ても、普通に兄を慕う妹にしか見えない。

(こんな特技があっても、苦しいだけね)

自覚したのは、十三歳の時。サクがサンに笑っていてと言ってくれたあの時。

でも、兄にそんな感情を持つなどおかしい。

(それに、サクも私のことはただの妹としか思ってないわ)

サンはサクが、自分のことを一人の女性として見ているなど、思ってもいなかった。

(サクは近いうちに、この家の当主になるわ。そして、良家のお嬢さんと結婚する)

それが、家にとって正しいことだ。

最近は父の具合が悪く、恐らく早いうちにサクに当主の座を譲るだろう。

(私もこの家のために、結婚をして、跡継ぎを残さなければ)

そのためにも、今回来たお見合いを成功させなくてはいけない。

(確か、私より六歳年上の方よね)

どんな人か分からない。だが、自分を貰ってくれるのなら、愛せるよう頑張ろうと思う。

きっと、その人に恋は出来ないだろう。けれども、愛にはなるかもしれない。一緒に過ごす内に、芽生えるものがあるかもしれない。

(そうよ、会ってみましょう。それに、私とサクがお互いに結婚してしまえば、きっと私は諦められる。そして、ちゃんと兄妹としてサクと笑い合えるわ)

自分を励ますように、サンは笑った。

けれども、その笑顔がとても痛々しいことは、誰も知るはずなかった。


そして、サクがダンスパーティーから帰ってくると、サンはお見合いのことを話す。

「……そっか」

少しだけ声を低くしたサクを、サンは不安げに見上げる。

「良かったね!いい人だと良いな。だって僕の義理の弟になるんだし。あ、でも年上なんだよね?弟って何か変だね」

にっこりと笑って、サクは早口で言う。

「とにかく、お見合いではいつも通りにね」

「え、ええ」

サクはそれだけ言うとサンに手を伸ばす。が、髪に触れる寸前で手を止め、力なく降ろした。

「サク?」

「ごめん、ちょっと用を思い出したんだ」

サクの寂しげな笑顔に、サンは何も言えなかった。

(サク、泣きそうな顔してた)

その答えを知らないサンは、何故か自分の胸も痛んだ。
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