ドッペル少年少女~生まれる前の物語~
「右、左、右―わっ!」
足元を見ていたサンは、バランスを崩してサクの足を踏む。
「ご、ごめんなさい」
「ううん、全然痛くないから大丈夫だよ!それより、足元じゃなくて僕の顔を見てて」
あの後、サクに手を引かれ二人は空き部屋へと入ると向かい合い、ダンスの練習を始めた。
本当はまだ、サクはレッスンがあったのだが、サンを優先したため、サボることになったが。
「何か話ながら踊ってみよう。僕が上手くリードするから、サンは足元は見なくていいよ。上手く踊らなきゃって考えは一端忘れてね」
「うん……」
言われるままに、サンはサクの顔を見る。彼の瞳に写る自分は、随分と頼りない顔をしていて、少し恥ずかしくなる。
「ねぇ、サン。昔二人でさ、前世の話をしたよね?」
「?ええ」
花冠を作った日のことを、サンはぼんやりと思い出す。
「僕達は双子だけど、前世ではどうだったんだろうね?」
「前世が本当にあるのか分からないから、何とも言えないわ」
自然と足が動き、右へ左へ二人は動く。
「僕はあると思うな。……それでね、前世に関する本って言うのを見つけたんだ」
「本?」
首を傾げるサンに、サクは頷く。
「特に興味深かったのは双子のお話。双子には色々な説があるんだって。例えば、前世で親友だったり恋人だったりした二人が、血縁という強い絆で結ばれるために生まれ変わったとかね」
サクはそこで言葉を切ると、どこか憂いを帯びたような顔をする。
くるくるとターンをし、また惹かれ合うように向き合って、二人はダンスを続ける。
「もし、僕達にも前世があったなら、どっちなんだろうね?恋人だったのかな?それとも、出会う筈のなかった他人だったのかな?」
「……サク?」
握られている右手が少しだけ痛む。それは、まるでサク自身が痛みに耐えているようにも思えた。
「僕達は他の双子の人達よりも、ずっと特別だと思ってた。サンに何かあれば、僕はすぐ分かるから」
俯きながらサクは唇を噛み締める。まだ子供である彼には、自分の中に芽生えている心を隠し、耐えるのは辛かった。
けれども、妹で片割れの彼女に向ける思いは普通ではないと知っている。
(どうして、僕達は大人になっていくんだろう?)
双子として生まれたことを嬉しく思ったあの時間。サンと引き離されることなく、一緒に笑いあえた時間で生きられたら良かった。
だが、時間と言うのは容赦なく過ぎる。どんなに願っても止まってくれない。
「サク?」
不安げなサンの声に、サクはようやく顔を上げた。
「なんてね!」
足元を見ていたサンは、バランスを崩してサクの足を踏む。
「ご、ごめんなさい」
「ううん、全然痛くないから大丈夫だよ!それより、足元じゃなくて僕の顔を見てて」
あの後、サクに手を引かれ二人は空き部屋へと入ると向かい合い、ダンスの練習を始めた。
本当はまだ、サクはレッスンがあったのだが、サンを優先したため、サボることになったが。
「何か話ながら踊ってみよう。僕が上手くリードするから、サンは足元は見なくていいよ。上手く踊らなきゃって考えは一端忘れてね」
「うん……」
言われるままに、サンはサクの顔を見る。彼の瞳に写る自分は、随分と頼りない顔をしていて、少し恥ずかしくなる。
「ねぇ、サン。昔二人でさ、前世の話をしたよね?」
「?ええ」
花冠を作った日のことを、サンはぼんやりと思い出す。
「僕達は双子だけど、前世ではどうだったんだろうね?」
「前世が本当にあるのか分からないから、何とも言えないわ」
自然と足が動き、右へ左へ二人は動く。
「僕はあると思うな。……それでね、前世に関する本って言うのを見つけたんだ」
「本?」
首を傾げるサンに、サクは頷く。
「特に興味深かったのは双子のお話。双子には色々な説があるんだって。例えば、前世で親友だったり恋人だったりした二人が、血縁という強い絆で結ばれるために生まれ変わったとかね」
サクはそこで言葉を切ると、どこか憂いを帯びたような顔をする。
くるくるとターンをし、また惹かれ合うように向き合って、二人はダンスを続ける。
「もし、僕達にも前世があったなら、どっちなんだろうね?恋人だったのかな?それとも、出会う筈のなかった他人だったのかな?」
「……サク?」
握られている右手が少しだけ痛む。それは、まるでサク自身が痛みに耐えているようにも思えた。
「僕達は他の双子の人達よりも、ずっと特別だと思ってた。サンに何かあれば、僕はすぐ分かるから」
俯きながらサクは唇を噛み締める。まだ子供である彼には、自分の中に芽生えている心を隠し、耐えるのは辛かった。
けれども、妹で片割れの彼女に向ける思いは普通ではないと知っている。
(どうして、僕達は大人になっていくんだろう?)
双子として生まれたことを嬉しく思ったあの時間。サンと引き離されることなく、一緒に笑いあえた時間で生きられたら良かった。
だが、時間と言うのは容赦なく過ぎる。どんなに願っても止まってくれない。
「サク?」
不安げなサンの声に、サクはようやく顔を上げた。
「なんてね!」