君がいなくなったって【短編】



******



「ナナミ、顔死んでるけど大丈夫?」


教室に入ってかけられた1言。


「あーうん、軽く寝不足。
今脳みそがグルグル回ってる」


心配そうに、でもちょっとニヤニヤしながら私の顔を覗き込む親友、リコの面白いものみっけた、とでも言いたげな目を手で塞ぎながら返事をする。


「ヒロくんか。
ヒロくんでしょ?
なに?なんかあったの?」


ヒロと私と同じ中学だったリコは、中2の時に私たちが付き合い始めたことを知っている。

目を爛々とさせて身を乗り出してくるリコに申し訳ないけど、これからする話はあんまり面白くない、はず。


「別れようかなって、思ってる」


口にすると、その言葉がずしっとのしかかる。

別れる。

恋人じゃなくなる。

特別じゃなくなる。

彼の隣を手放す。

でも、その方が今より幸せになれそうな気がして、それがまた辛い。


「中学の時は、高校が離れたって別に会えるし大丈夫でしょって思ってた」


ヒロの通う高校は、私の通う高校の最寄駅から急行で3駅。

会おうと思えば、会える。
高校に入学するまではそう思っていた。


「でも、高校生になって、ヒロは部活に入った」


中学の時は帰宅部だったヒロが、陸上部に。

びっくりしたけど、たしかに運動神経は良い方だったから向いてるんじゃない?なんて軽く考えていた。


「やっぱり、お互い環境が違うとさ、合わせるのが難しくなるよね」


ヒロが、部活に本気になればなるほど会えなくなっていく。

それが寂しくて、でも、部活を一生懸命頑張ってるヒロに、そんなこと言えるわけがなかった。
< 2 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop