君がいなくなったって【短編】
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「ナナミ、顔死んでるけど大丈夫?」
教室に入ってかけられた1言。
「あーうん、軽く寝不足。
今脳みそがグルグル回ってる」
心配そうに、でもちょっとニヤニヤしながら私の顔を覗き込む親友、リコの面白いものみっけた、とでも言いたげな目を手で塞ぎながら返事をする。
「ヒロくんか。
ヒロくんでしょ?
なに?なんかあったの?」
ヒロと私と同じ中学だったリコは、中2の時に私たちが付き合い始めたことを知っている。
目を爛々とさせて身を乗り出してくるリコに申し訳ないけど、これからする話はあんまり面白くない、はず。
「別れようかなって、思ってる」
口にすると、その言葉がずしっとのしかかる。
別れる。
恋人じゃなくなる。
特別じゃなくなる。
彼の隣を手放す。
でも、その方が今より幸せになれそうな気がして、それがまた辛い。
「中学の時は、高校が離れたって別に会えるし大丈夫でしょって思ってた」
ヒロの通う高校は、私の通う高校の最寄駅から急行で3駅。
会おうと思えば、会える。
高校に入学するまではそう思っていた。
「でも、高校生になって、ヒロは部活に入った」
中学の時は帰宅部だったヒロが、陸上部に。
びっくりしたけど、たしかに運動神経は良い方だったから向いてるんじゃない?なんて軽く考えていた。
「やっぱり、お互い環境が違うとさ、合わせるのが難しくなるよね」
ヒロが、部活に本気になればなるほど会えなくなっていく。
それが寂しくて、でも、部活を一生懸命頑張ってるヒロに、そんなこと言えるわけがなかった。