二度とない、もう一度。
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塾講師、先生。
「はい、じゃあここまで」
愛しい彼のその声と同時に何人もの女子生徒が彼の周りに集まる。
「先生ー、私もうすぐテストだからライン教えて〜」
「私も私も!分からないところいっぱいなんだよね」
「えー!先生私も!」
大きくため息をつくと
「ほら、早く帰れ」
そう言いながら一歩、二歩と近づいて
顔を上げると目の前にーーーーー湯川昇(ゆかわのぼる)先生が立っていた。
「陽菜、お前ももうすぐテストだろ。せっかく良い高校入れたんだから勉強怠んなよ」
頭をクシャッとするその手のひらは私より大きくて温かい。
「分かってるもん…」
ならいいよって優しく笑って教室を出ていく後ろ姿をみんなが見てる。
もちろん私、唐沢陽菜(からさわはるな)もだ。