二度とない、もう一度。
机の上のノートをまとめて鞄にしまうと塾仲間に手を振り教室を出る。
「陽菜!」
うしろから聞こえた声の方を向くと、
湯川先生がいる。
「ゆ、湯川先生」
「俺ももう帰るから送ってやるよ」
「い、いいです!」
「はあ?なんでだよ」
「だ、だって…誰に見られるか…」
「別にいいだろうがよ。ほら行くぞ」
あーもう…。
噂になったら面倒くさいのに…
でもーーーー
嬉しい…。
たまにこうやって家まで車で送り届けてくれる時がある。
昔からの教え子の特権、かな。
「シートベルトちゃんとしろよ」
「わかってるよ!子供じゃないんだから!」
「子供だろ、高校生なんて」
何気ないそんな言葉にズキンと胸が痛む。
そうだよね。
湯川先生からしたら、私なんて子供だよ。
「ほらやるよ」
先生が差し出したのは、オレンジジュース。
「…子供扱い」
「お前好きじゃん」
先生は、優しい。
優しくて頼りがいがあって
でも時に厳しくて
先生のなにが好きって聞かれたら
きっと私は「全部。」って答えるんだろう