ドS上司の意外な一面
act:意外な展開2
***

「いつも通り過ぎて、何だか拍子抜けしちゃった」

 昨日の一件で何となくだけど、少しだけ距離が縮まった感じがしたのにな……

 コピー機から出てくる紙を見ながら、いらないことばかりを次々と考えてしまう。ため息をつきながら書類を纏めてデスクに戻ると、鎌田先輩とばっちり目があった。

「コピー、有り難うございます。これから第三会議室に行って朝のミーティングしてきますので、小野寺が戻ったら、そこに来るように伝えてください」

「はい……」

「それとこれ」

 上着のポケットからそっと、鍵を取り出す。

「一番上の引き出しの鍵です。俺の印鑑が押してある書類がチェック済みになるので、確認したら君の印鑑を押して課長に提出して下さい」

(あれっ? 今、俺って言わなかった?)

 ビックリして鎌田先輩を見ても、そのことにまったく気付いていないらしく、急いで部署を出て行ってしまった。

 ――昨日の名残なのかな。少し……いや、かなり嬉しい。

 いそいそ鍵を回して引き出しを開け書類を出そうとしたら、何かに引っかかってしまった。引っかかっている物をどけようと手を伸ばした瞬間、

「鎌田先輩のデスクの中の家捜し?」

「わっ!」

 どこから出てきたのか、小野寺先輩が隣にいた。しかも体にかなり密着している状態だった。

「声をかけたけど、気がつかなかった?」

「はい、探し物に夢中だったので……」

「それで、鎌田先輩の引き出しからエロ本でも出てきたとか?」

 笑いながら、引き出しの奥を覗き見する。

「ふーん」

 密着している体をさりげなくどけて、自分のデスクに戻った。

「きちんと鍵を閉めないと、また鎌田先輩に怒られるよ?」

「そうですね」

 妙なドキドキを抑えつつ、慌てて机の鍵を閉める。

「鍵付きの引き出しにしまっているくらいだから、とーっても大切な物かもね」

「えっ!?」

「奥にあった、青いリボン付きのプレゼントらしき物」

「はぁ」

「きっと元カノから貰った物で、なかなか捨てられないのかもしれないなぁ」

 元カノから貰った、大切なプレゼント――

「ほら鎌田先輩ってさ、浮いた噂がないでしょ? もしかしたらその元カノのことを未練がましくずっと想っているから、誰とも付き合わないのかもなぁって思ったりしたんだよね」

「小野寺先輩、鎌田先輩が第三会議室に来るようにって言ってました……」

 早くどこかに行ってほしい。胸がズキズキする――

「ああ、決算報告書を持って行かなきゃならないんだった。教えてくれて有り難う」

 そう言って軽い足取りで去って行く、小野寺先輩を見ることができなかった。

 目元が熱い……

 やり場のない気持ちに胸が押しつぶされそうで、苦しくて堪らなかった。
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