ドS上司の意外な一面
act:意外な展開(小野寺目線2)
***

「ハハッ。してやったりかな?」

 スキップしそうな軽い足取りで、会議室へと向かう。少し遅かったのか、ミーティングは既に終わっていた。

「遅かったですね。どこで道草くっていたんですか?」

 メガネの奥から、レーザービームのようなものが放出される。殺傷能力が半端ねぇ感じで、マジ怖い。

「俺も、鎌田先輩並みに忙しいんです。すみません」

 頭を下げながら、報告書を手渡した。

「打ち合わせって言っても名ばかりな、朝の雑談でしょ、どうせ!」

 俺は壁に寄りかかり、報告書に目を通す鎌田先輩を横目で見やる。どうせ、今朝の噂話の弁解を必死にしていたんだろうさ。

「何を言ってるんです。各部署との連携をはかるための大切なミーティングです」

 ――とんだミーティングだな。

 鼻で笑ってから、鎌田先輩の目の前に立ってやった。

「……なんですか?」

「俺、鎌田先輩と男の勝負がしたいです」

「なんで君と、そんな勝負をしなければならないんですか?」

 実にものすごく、不満そうな顔をしているように見える。

「彼女をかけて勝負をしましょうよ」

 メガネの奥の瞳の色が、瞬く間に変わった。へえ、目は口ほどに物を言う例えはホントだね。

「隠していたんですけど、彼女を好きになってしまいました」

「っ……。君は受付嬢の彼女がいるのでは?」

 へぇよく知っているじゃないか。噂には疎そうなのに。

「そうですね。だけどいつも気取ってばかりの女と付き合ってると、正直疲れるんです。鎌田先輩にはそういう話が、全然分からないと思うんですけど」

「…………」

「毎日、フランス料理ばかり食べていたら飽きるでしょ。そこにお茶漬けを出されたら、食べずにはいられない」

「彼女は、お茶漬けではありません!」

 低く唸るように、鎌田先輩は言い放つ。悪いけどそんな脅しは、俺に通用しないから。

「だーって、お茶漬けって飽きがこないでしょ。それに最近気づいたんです、彼女結構可愛いなって。あどけない仕草もそうだけど、やっぱり笑ってる顔が一番好きだなぁと思いまして」

 笑いながら目の前にいる怖い顔した先輩の肩に、優しくポンと手を置いてみた。僅かだけど震えているのが伝わってくる。

「先輩が大事にしている彼女、俺が美味しく戴かせてもらいますね」

 耳元でそう宣言して、会議室をあとにした。鎌田先輩の顔は顔面蒼白だった。
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