ドS上司の意外な一面
意外な一面 Wedding狂想曲(ラプソディ)5
小首をちょっとだけ傾げながら、怒ってるんだか困ってるんだかよく分からない、微妙な表情の正仁さんを見つめてみた。
新婚旅行先の夜、キングサイズのベットに正座をして向かい合った私たち。いろんな緊張感でドキドキしていると、神妙な面持ちで正仁さんが先に口を開いてきた。
「俺はこれまで、温かい家庭というのを知らずに過ごしてきました」
「お式にもご両親、来て下さらなかったですもんね」
お祝い金だけ送られてきただけで、実際に会ったことがない正仁さんのご両親。
「物心ついた時には既に冷えきった家庭でした。だけど近所や会社の体裁上、オシドリ夫婦を彼らは上手く演じていましたよ。それが限界になったのは、俺が中学の頃だったんです」
「山田さんにも少し、話を聞いてます。よく泊まっていたって」
遠い目をしながら自嘲気味に笑いかける、その寂しげな笑顔――
「俺をどっちが引き取るか、毎日揉めていましたから……。あの家では落ち着いてなんていられなかったんです。でもそのお陰でバンドを始めるきっかけになったんですから、一概に全てが駄目だったわけではないんですがね」
「でも淋しい話です。ご両親が自分のために言い争うなんて」
「だから君のご両親に初めて会ったときは、かなり衝撃的でした。娘を奪うであろう男に、あそこまでウエルカムなんて」
二人でそのときのことを思い出して、顔を見合わせて笑ってしまった。
付き合って一か月後に、私の実家に行ったあの日。緊張を隠すためなのからメガネをちゃっかり装着し、強張った顔のまま挨拶した正仁さんに、父はいきなり抱きついたのである。
「いやぁひとみっ、でかしたな。いかにも出世しそうなイケメンを、ゲットしたじゃないか」
「ひとみが羨ましい! 母さん変われるものなら変わりたいわ」
父は正仁さんの肩をバシバシ叩き、母は両手を握りしめて、二人揃ってすっごく喜んでいた。
ちなみに三つ上の姉は、まだ未婚である。
「君があのご両親の元で育ったから、底抜けに明るくて、たくましい性格になったんですね」
「ははは……。でも正仁さんの親にもなったんですよ。遠慮なく仲良くして下さいね」
微笑みながら言うと、優しく抱き締めてくれた。
「ひとみとなら……必ずあったかい家庭を、作ることができそうです。頼りない夫ですが、末永く宜しくお願いします」
「頼りないなんてとんでもないっ、私の方がダメダメな奥さんなのにっ。頑張って正仁さんが望むような、居心地のいい家庭を作りたいです」
正仁さんの腕の中から、そっと顔を見上げる。
「だから末永く、宜しくお願いします正仁さん」
「ひとみ――」
正仁さんが涙ぐんだように見えた瞬間、優しく塞がれた唇。その後の記憶は途切れ途切れなのは、言うまでもない。
正仁さんの性格が屈折して素直じゃないのは、荒んだ家庭環境のせい――これからは私がたくさん愛情を注いであげれば、多少なりとも改善されるんじゃないかと期待していたりする。
山田さんに噛みつきそうになってる正仁さんの頭を、これでもかと優しく撫でてあげた。
「山田さんは正仁さんを心配して、私に助言してくれたんですよ。怒らないであげて下さいね」
「っ………」
私の手を振り払うことなく、されるがままの正仁さんを見て、驚いた表情をありありと浮かべている山田さん。
「何か……まさやんがひーちゃんの子供みたい。子供ができたら、取り合いしちゃうんじゃないの?」
子供と言われて恥ずかしかったのか、撫でていた私の手を素早く掴むと、そのまま指を絡めて握りしめてくれる。
――絡められた指から伝わる正仁さんの温もり、すごく熱い……。これって照れているから?
「けん坊の方こそ年上女房を子供にとられて、イジイジしそうだよな。うちに泣きついて来るなよ、新婚家庭なんだから」
「はいはい。見てるだけでお腹いっぱいになりそうなラブラブっぷりは、もう結構ですよ。お邪魔虫は退散します」
うへぇと顔を歪ませながら玄関に向かう山田さんを、二人並んで見送った。
「また遊びに来て下さいね」
「うん、ひーちゃんがまさやんのことを窘めるのを見るために、また遊びに行くから」
「けん坊っ!」
「うわっ!? お邪魔しました」
山田さんは困った顔のまま、飛び出すように帰って行く。本当にこの二人は仲良しだな。
「まったく、けん坊の奴は」
「ふふっ、いいコンビですよ」
「君も人前であんな大胆なことをして、まったく……」
私が不思議そうな顔をすると、いきなり横抱きにされた体。
「あのぅ、正仁さん?」
「これから行うことと同じように、以後人前で恥ずかしいことをしないで下さい」
横抱きにされているので、顔の位置がすっごく近い。正仁さんがよくする、色っぽい目付きで見つめられ、否応なしにドキドキしてしまう。
「えっと、正仁さん……これから行うことって?」
アヤシげなフェロモンがじわじわっと漂ってる時点で、質問するだけ野暮な話なワケで――まだ日が高いんですけど?
「生意気な奥さんに、お仕置きをしなければ……です」
「テクニカルなお仕置きは、勘弁してほしいです」
気がつけば寝室に拉致、乱暴にベットの上に落とされてしまった。
「きゃっ!? んもぅ!」
「テクニカル? あれのどこがテクニカルなんです? 具体的に言ってみて下さい」
んもぅ屈折しまくった性格を、何とかしてほしい。好きな相手を弄り倒すって、どんだけ――
私が赤面して困ってる間に、どんどん脱がされていく服。
「ほら、きちんと答えないと、テクニカル中級編に進めませんよ」
甘い吐息と一緒に耳元で囁かれた衝撃的な事実に、目を見開いて固まってしまった。
――アレが初級編になるの!? じゃあ今まで初級編で悶絶しつつ、記憶が飛んでたワケになるんですけど。
「まっ、正仁さんのあっちのスペックは、どんだけ高いんですか? 何か私、軽くショック……」
「俺の全てを教えるのには、たっぷり時間がありますからね。ゆっくり時間をかけて、ひとみを愛してあげますから……。受け止めてくれるんでしょう?」
片側の口角を上げずに優しく微笑む正仁さんを、拒むことなんてできないに決まってる。
「勿論受け止めますよ、正仁さんの愛をください」
そう言って私は目を閉じた。瞼に優しいキスを、そっとしてくれる正仁さん。
「今日はもう出掛けられません。君を抱くのに一度だけでは、おさまりそうにないですから」
息が止まりそうな激しいキスをする正仁さんに驚きつつ、しっかり受け止めようと必死に頑張る私。
どんなテクニカルな世界が待ち受けているのか全然想像つかないけど、正仁さんの愛を全身全霊で受け止めるから。
――それが妻の役目だよね。
だけど赤ちゃんができたら、テクニカルは少しだけ自重してもらわなきゃ。
新婚旅行先の夜、キングサイズのベットに正座をして向かい合った私たち。いろんな緊張感でドキドキしていると、神妙な面持ちで正仁さんが先に口を開いてきた。
「俺はこれまで、温かい家庭というのを知らずに過ごしてきました」
「お式にもご両親、来て下さらなかったですもんね」
お祝い金だけ送られてきただけで、実際に会ったことがない正仁さんのご両親。
「物心ついた時には既に冷えきった家庭でした。だけど近所や会社の体裁上、オシドリ夫婦を彼らは上手く演じていましたよ。それが限界になったのは、俺が中学の頃だったんです」
「山田さんにも少し、話を聞いてます。よく泊まっていたって」
遠い目をしながら自嘲気味に笑いかける、その寂しげな笑顔――
「俺をどっちが引き取るか、毎日揉めていましたから……。あの家では落ち着いてなんていられなかったんです。でもそのお陰でバンドを始めるきっかけになったんですから、一概に全てが駄目だったわけではないんですがね」
「でも淋しい話です。ご両親が自分のために言い争うなんて」
「だから君のご両親に初めて会ったときは、かなり衝撃的でした。娘を奪うであろう男に、あそこまでウエルカムなんて」
二人でそのときのことを思い出して、顔を見合わせて笑ってしまった。
付き合って一か月後に、私の実家に行ったあの日。緊張を隠すためなのからメガネをちゃっかり装着し、強張った顔のまま挨拶した正仁さんに、父はいきなり抱きついたのである。
「いやぁひとみっ、でかしたな。いかにも出世しそうなイケメンを、ゲットしたじゃないか」
「ひとみが羨ましい! 母さん変われるものなら変わりたいわ」
父は正仁さんの肩をバシバシ叩き、母は両手を握りしめて、二人揃ってすっごく喜んでいた。
ちなみに三つ上の姉は、まだ未婚である。
「君があのご両親の元で育ったから、底抜けに明るくて、たくましい性格になったんですね」
「ははは……。でも正仁さんの親にもなったんですよ。遠慮なく仲良くして下さいね」
微笑みながら言うと、優しく抱き締めてくれた。
「ひとみとなら……必ずあったかい家庭を、作ることができそうです。頼りない夫ですが、末永く宜しくお願いします」
「頼りないなんてとんでもないっ、私の方がダメダメな奥さんなのにっ。頑張って正仁さんが望むような、居心地のいい家庭を作りたいです」
正仁さんの腕の中から、そっと顔を見上げる。
「だから末永く、宜しくお願いします正仁さん」
「ひとみ――」
正仁さんが涙ぐんだように見えた瞬間、優しく塞がれた唇。その後の記憶は途切れ途切れなのは、言うまでもない。
正仁さんの性格が屈折して素直じゃないのは、荒んだ家庭環境のせい――これからは私がたくさん愛情を注いであげれば、多少なりとも改善されるんじゃないかと期待していたりする。
山田さんに噛みつきそうになってる正仁さんの頭を、これでもかと優しく撫でてあげた。
「山田さんは正仁さんを心配して、私に助言してくれたんですよ。怒らないであげて下さいね」
「っ………」
私の手を振り払うことなく、されるがままの正仁さんを見て、驚いた表情をありありと浮かべている山田さん。
「何か……まさやんがひーちゃんの子供みたい。子供ができたら、取り合いしちゃうんじゃないの?」
子供と言われて恥ずかしかったのか、撫でていた私の手を素早く掴むと、そのまま指を絡めて握りしめてくれる。
――絡められた指から伝わる正仁さんの温もり、すごく熱い……。これって照れているから?
「けん坊の方こそ年上女房を子供にとられて、イジイジしそうだよな。うちに泣きついて来るなよ、新婚家庭なんだから」
「はいはい。見てるだけでお腹いっぱいになりそうなラブラブっぷりは、もう結構ですよ。お邪魔虫は退散します」
うへぇと顔を歪ませながら玄関に向かう山田さんを、二人並んで見送った。
「また遊びに来て下さいね」
「うん、ひーちゃんがまさやんのことを窘めるのを見るために、また遊びに行くから」
「けん坊っ!」
「うわっ!? お邪魔しました」
山田さんは困った顔のまま、飛び出すように帰って行く。本当にこの二人は仲良しだな。
「まったく、けん坊の奴は」
「ふふっ、いいコンビですよ」
「君も人前であんな大胆なことをして、まったく……」
私が不思議そうな顔をすると、いきなり横抱きにされた体。
「あのぅ、正仁さん?」
「これから行うことと同じように、以後人前で恥ずかしいことをしないで下さい」
横抱きにされているので、顔の位置がすっごく近い。正仁さんがよくする、色っぽい目付きで見つめられ、否応なしにドキドキしてしまう。
「えっと、正仁さん……これから行うことって?」
アヤシげなフェロモンがじわじわっと漂ってる時点で、質問するだけ野暮な話なワケで――まだ日が高いんですけど?
「生意気な奥さんに、お仕置きをしなければ……です」
「テクニカルなお仕置きは、勘弁してほしいです」
気がつけば寝室に拉致、乱暴にベットの上に落とされてしまった。
「きゃっ!? んもぅ!」
「テクニカル? あれのどこがテクニカルなんです? 具体的に言ってみて下さい」
んもぅ屈折しまくった性格を、何とかしてほしい。好きな相手を弄り倒すって、どんだけ――
私が赤面して困ってる間に、どんどん脱がされていく服。
「ほら、きちんと答えないと、テクニカル中級編に進めませんよ」
甘い吐息と一緒に耳元で囁かれた衝撃的な事実に、目を見開いて固まってしまった。
――アレが初級編になるの!? じゃあ今まで初級編で悶絶しつつ、記憶が飛んでたワケになるんですけど。
「まっ、正仁さんのあっちのスペックは、どんだけ高いんですか? 何か私、軽くショック……」
「俺の全てを教えるのには、たっぷり時間がありますからね。ゆっくり時間をかけて、ひとみを愛してあげますから……。受け止めてくれるんでしょう?」
片側の口角を上げずに優しく微笑む正仁さんを、拒むことなんてできないに決まってる。
「勿論受け止めますよ、正仁さんの愛をください」
そう言って私は目を閉じた。瞼に優しいキスを、そっとしてくれる正仁さん。
「今日はもう出掛けられません。君を抱くのに一度だけでは、おさまりそうにないですから」
息が止まりそうな激しいキスをする正仁さんに驚きつつ、しっかり受け止めようと必死に頑張る私。
どんなテクニカルな世界が待ち受けているのか全然想像つかないけど、正仁さんの愛を全身全霊で受け止めるから。
――それが妻の役目だよね。
だけど赤ちゃんができたら、テクニカルは少しだけ自重してもらわなきゃ。