ドS上司の意外な一面
嬉しハズカシ新婚生活
今、私は正仁さんに頼まれて、山田さんの会社に向かっている。書類を届けてから今川さんに、新婚旅行のお土産を渡すために。この間の休日に行こうとしていたんだけど、急なアクシデントで行けなくなってしまったから――正仁さんのせいで……。
最近は思い立ったが吉日みたいに、所構わずなのである。少しは私の気持ちを尊重して、自重してもらいたいのだけれど。
「他の会社に用事で行くのは久しぶりだな。ちょっとだけ緊張する」
そんな気持ちを隠して受付で名前を告げてから、営業企画室に通してもらった。
「あっ、ひーちゃん、わざわざ有り難う」
部署に入った瞬間、見知った顔が目に入ったので内心安堵しつつ、しっかり会釈をする。
「いえ、他に用事があったので。ちなみに今川さんにお逢いしたいんですけど……」
「ああ、例のお土産ね。今川部長は外に出てるから、会長室に行ってみるといいよ。今川夫人がいるから」
「蓮さんが?」
私が不思議そうな顔をして山田さんを見ると、山田さんは扉のそばを通った人物にいきなり話しかけた。
「今川くん、悪いっ!」
「山田課長、何ですか?」
正仁さんには負けるけど端正な顔立ちのイケメンな社員さんが、にこやかな表情で傍にやって来た。
「彼は今川部長の甥っ子なんだ。そんでもって彼女は取引先の方で用事があって、ウチに来たんだけど」
山田さんの説明を受けて、お互い目を合わせて会釈をした。
「今川くん、彼女を会長室に案内してほしいんだ。俺これから出なきゃならなくて。時間、大丈夫だよね?」
「山田課長に用事を頼まれて、断れる人がいるなら見てみたいですよ。ちょうど会長室のあるフロアに用事があるので、俺は大丈夫です」
今川くんと呼ばれたイケメン社員さんが、私に向かって満面の笑みを浮かべる。
「すみません、仕事がお忙しい中……」
恐縮しつつ様子を窺ってみたら、
「いえいえ、大事なお客様……ましてやこんな可愛らしい人をエスコートができるなんて、こちらとしては光栄です」
「じゃ、今川くん宜しくね」
渡した書類を手に、慌てた様子で山田さんが私たちの元から走り去っていく。
「それでは案内しますね、こちらです」
そう言って私の腰に腕を回し、扉を開けてくれた。その強引なリードに思いっきり戸惑ってしまって、今川さんの顔を見上げてしまった。
「ああ失礼、癖なんです。帰国子女なんですよ、俺」
「はぁ……。なるほど」
腰に回された手はすぐに外されたけど、正仁さんが見たら確実にレーザービームが勢いよく飛んでくるに違いない。
「うちの会長と、お知り合いなんですか?」
「いいえ。今川部長さんの奥さんと知り合いなんです」
「ああ、それで会長室に案内なワケなんだ」
そう言いながら、じっと私の顔を見つめてくる。もしかして、顔に何かついてるんだろうか?
不思議に思い見つめ返してみた。目元が今川部長さんに、結構似ているな。
「可愛らしいなぁ、自分の好みだなって思っても必ず、彼氏やら旦那が既におるもんな」
「はい?」
「すみません、つい愚痴ってしまって。最近の俺、めっちゃ恋愛運がないんです。今もアナタを口説こうかなぁって思ったら、左手薬指の指輪がキラリ」
そう言って、私の指輪を指差した。
「今川さんはイケメンなのに、彼女がいないのが逆に不思議です。選り取りみどりってイメージなんですけど」
率直な意見を伝えると、俳優のように肩を竦める。リアクションがいちいちオーバーだから日本人女性の目につくせいで、受け入れられないのではないかと思ってしまった。
「初対面の人に、思ったことが素直に言えるんですね」
「ハッ、すみません! 何か変に緊張しちゃうと、ベラベラ口走ってしまうんです」
正仁さんには、君の得意技と言われています。
「変に緊張って、俺そんなに何か出してますか?」
笑いながらじっと顔を見つめられたのだけど、これが緊張のモトなんですが。
困って苦笑いして受け流してる間に、会長室に到着した。正直、助かった。
「美人さんのエスコートはとても楽しかったです。旦那様に宜しく」
「はい、有り難うございました」
全然、美人さんではないのにな。
「ちなみに旦那様は、どこの部署にお勤めなんですか?」
「へっ!?」
「アナタのように素直で可愛い人を奥さんにできた、旦那様に興味がわきまして」
「えっと営業二課の、鎌田課長です……」
名前を教えると、腕を組んで考え出した今川さん。
「思い出した。合コンのときに山田課長と親しげに話し込んでた、メガネのイケメン……。ととっ、合コンの話は知っていましたか?」
「会社の交流が目的の合コンですよね? 知ってますよ」
笑顔で合コンに送り出した、当時の彼女でございます。
「彼の奥さんだったんですか、いや驚きました」
「はぁ……」
「合コンのときに何となく人を寄せ付けないオーラが出ていたんで、女子社員たちも近付けなかったんです。アナタがいたからなんですね」
普段から、そのオーラは漂ってます。人の好き嫌いがとても激しい人なんです。とは言えない……。無駄口を叩くと、また叱られちゃうからね。
とりあえず、笑って誤魔化す――
「山田課長とまた、合コンセッティングして下さいって伝えて下さい。宜しくお願いします」
「分かりました、有り難うございます」
そしてやっと、イケメンから解放された。
最近は思い立ったが吉日みたいに、所構わずなのである。少しは私の気持ちを尊重して、自重してもらいたいのだけれど。
「他の会社に用事で行くのは久しぶりだな。ちょっとだけ緊張する」
そんな気持ちを隠して受付で名前を告げてから、営業企画室に通してもらった。
「あっ、ひーちゃん、わざわざ有り難う」
部署に入った瞬間、見知った顔が目に入ったので内心安堵しつつ、しっかり会釈をする。
「いえ、他に用事があったので。ちなみに今川さんにお逢いしたいんですけど……」
「ああ、例のお土産ね。今川部長は外に出てるから、会長室に行ってみるといいよ。今川夫人がいるから」
「蓮さんが?」
私が不思議そうな顔をして山田さんを見ると、山田さんは扉のそばを通った人物にいきなり話しかけた。
「今川くん、悪いっ!」
「山田課長、何ですか?」
正仁さんには負けるけど端正な顔立ちのイケメンな社員さんが、にこやかな表情で傍にやって来た。
「彼は今川部長の甥っ子なんだ。そんでもって彼女は取引先の方で用事があって、ウチに来たんだけど」
山田さんの説明を受けて、お互い目を合わせて会釈をした。
「今川くん、彼女を会長室に案内してほしいんだ。俺これから出なきゃならなくて。時間、大丈夫だよね?」
「山田課長に用事を頼まれて、断れる人がいるなら見てみたいですよ。ちょうど会長室のあるフロアに用事があるので、俺は大丈夫です」
今川くんと呼ばれたイケメン社員さんが、私に向かって満面の笑みを浮かべる。
「すみません、仕事がお忙しい中……」
恐縮しつつ様子を窺ってみたら、
「いえいえ、大事なお客様……ましてやこんな可愛らしい人をエスコートができるなんて、こちらとしては光栄です」
「じゃ、今川くん宜しくね」
渡した書類を手に、慌てた様子で山田さんが私たちの元から走り去っていく。
「それでは案内しますね、こちらです」
そう言って私の腰に腕を回し、扉を開けてくれた。その強引なリードに思いっきり戸惑ってしまって、今川さんの顔を見上げてしまった。
「ああ失礼、癖なんです。帰国子女なんですよ、俺」
「はぁ……。なるほど」
腰に回された手はすぐに外されたけど、正仁さんが見たら確実にレーザービームが勢いよく飛んでくるに違いない。
「うちの会長と、お知り合いなんですか?」
「いいえ。今川部長さんの奥さんと知り合いなんです」
「ああ、それで会長室に案内なワケなんだ」
そう言いながら、じっと私の顔を見つめてくる。もしかして、顔に何かついてるんだろうか?
不思議に思い見つめ返してみた。目元が今川部長さんに、結構似ているな。
「可愛らしいなぁ、自分の好みだなって思っても必ず、彼氏やら旦那が既におるもんな」
「はい?」
「すみません、つい愚痴ってしまって。最近の俺、めっちゃ恋愛運がないんです。今もアナタを口説こうかなぁって思ったら、左手薬指の指輪がキラリ」
そう言って、私の指輪を指差した。
「今川さんはイケメンなのに、彼女がいないのが逆に不思議です。選り取りみどりってイメージなんですけど」
率直な意見を伝えると、俳優のように肩を竦める。リアクションがいちいちオーバーだから日本人女性の目につくせいで、受け入れられないのではないかと思ってしまった。
「初対面の人に、思ったことが素直に言えるんですね」
「ハッ、すみません! 何か変に緊張しちゃうと、ベラベラ口走ってしまうんです」
正仁さんには、君の得意技と言われています。
「変に緊張って、俺そんなに何か出してますか?」
笑いながらじっと顔を見つめられたのだけど、これが緊張のモトなんですが。
困って苦笑いして受け流してる間に、会長室に到着した。正直、助かった。
「美人さんのエスコートはとても楽しかったです。旦那様に宜しく」
「はい、有り難うございました」
全然、美人さんではないのにな。
「ちなみに旦那様は、どこの部署にお勤めなんですか?」
「へっ!?」
「アナタのように素直で可愛い人を奥さんにできた、旦那様に興味がわきまして」
「えっと営業二課の、鎌田課長です……」
名前を教えると、腕を組んで考え出した今川さん。
「思い出した。合コンのときに山田課長と親しげに話し込んでた、メガネのイケメン……。ととっ、合コンの話は知っていましたか?」
「会社の交流が目的の合コンですよね? 知ってますよ」
笑顔で合コンに送り出した、当時の彼女でございます。
「彼の奥さんだったんですか、いや驚きました」
「はぁ……」
「合コンのときに何となく人を寄せ付けないオーラが出ていたんで、女子社員たちも近付けなかったんです。アナタがいたからなんですね」
普段から、そのオーラは漂ってます。人の好き嫌いがとても激しい人なんです。とは言えない……。無駄口を叩くと、また叱られちゃうからね。
とりあえず、笑って誤魔化す――
「山田課長とまた、合コンセッティングして下さいって伝えて下さい。宜しくお願いします」
「分かりました、有り難うございます」
そしてやっと、イケメンから解放された。