ドS上司の意外な一面
***

 兄ちゃと姉ちゃの間に、見えないモノがある。さっきの会話だって何なんだろう。

 帰ってきてから辛くて悲しくて泣いていたのに、その話を全然しなかった姉ちゃ。それどころか、兄ちゃの体の心配ばかりして。兄ちゃは兄ちゃで、らしくない感じだし。

 オイラを撫でてくれた手は優しくて暖かかったのに、どして姉ちゃには素っ気ないのにゃ?

「俺こそすみませんでしたって、何に対して謝ったの? 正仁さん」

 寝床から姉ちゃの呟く声が聞こえたので、オイラは心配になってベッドに上がる。

「八朔、正仁さんの手、とっても暖かかったよ。私の涙を拭いてくれたの」

「にゃ~」(良かったにゃ)

「聞きたかったこと、怖くてやっぱり口にできなかった。意気地なしだね私」

「にゃ~」(そんなの気にすんにゃ)

「正仁さん曲がったことが嫌いだから、もし何かあったら言ってくれると思うんだ。他人にも自分に厳しい人だから」

 言いながら頭を撫でて、よしよししてくれる。それはとっても気持ちがよくて、体の力が抜けてしまうものだった。

「にゃ~」(オイラは不器用だと思うにゃ)

「だから、信じるって決めたの」

「にゃ~、にゃん」(姉ちゃが決めたなら応援するにゃ)

「話、聞いてくれて有り難うね、もう遅いから早く寝なきゃ。おやすみ八朔」

 ゴソゴソと布団に潜る姉ちゃを見てから、オイラも足元で丸くなって眠った。
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