ドS上司の意外な一面
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 手元にある半年分の決算書のファイルに載ってる数字をぼんやり見ながら、頭の片隅で違うことを考えていた。

 八朔を拾ったり小野寺の恋愛を口頭で少しだけ応援したり、ストーカーに引っ掛かったり。他にも奥さんに不倫を疑われたりと結構、波乱万丈な半年だった気がする。

 挙げ句の果てにはホワイトデーを心霊スポットに行ってしまったのも、致命的なミスだった。今後このようなことをしないように、きっちり決めてやる!

 決算書の数字を追い終えてパタンとファイルを閉じた瞬間、小野寺の声が聞こえてきた。

『ん? 見慣れない長身の爽やか男子発見。うちの会社の女の子でも待ってるのかな』

 長身の爽やか男子という言葉に、イヤな予感がする。ひとみから無理矢理聞き出した、大学時代の恋愛話。俺が不機嫌になるのが分かるだけに、渋々といった様子でポツリポツリと話してくれた。

『大学のバスケ同好会でスリーポインターのエース的な存在で、男女問わずにいつも囲まれてる人でした。プレイしてる先輩はもうキラキラしていて、女の子の憧れで……。私は遠巻きから先輩を見ていたんです』

 ――キラキラね。俺は君からそんな言葉を、言われたことすらありません。生き生きしてるとは言われましたが……。

『ある日突然、先輩に告白されてビックリしました。男の人から告白されたのが初めてだったし』

 それでは俺は君に告白した、二番目の男になるんですね。

 ムスッとした様子の俺に困った顔をした君が、勘弁して下さいと懇願した。
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