ドS上司の意外な一面

 俺の彼女は、何を考えてるか未だにまったく分からない。

 目の前で平気に他の男へ笑顔を振りまきながら、楽しそうに喋る。それだけじゃなく、ファンから贈られてきたチョコの分別を手伝いますかと言ってくる。

 彼女なんだから少しくらい嫉妬しても良さそうなのに、今までそういう素振りすらない。

 俺だけムダに妬きもきしている、非常に気にくわない。

 しかも久しぶりに今夜一緒に長く過ごせるというのに、残業させるなんて……。

 このままでは、終わらせませんよ。

 貰ったチョコの甘さに身をゆだねながら、彼女の嫌がることを考えた――

「チョコに、かなりブランデー入れましたね。酔ってしまいました」

「そんなに入れた覚えはないです!」

 頬を両手でそっと包み込んで、逃げられないようにされる。鎌田先輩の涼しげな眼差しが、真っ赤になってる私の顔を直視した。

 かなり意地悪で、大好きな愛しい私の彼氏。

「君は俺が幼馴染みに頼まれて行った合コンに、楽しんできて下さいと笑って送り出しましたが、浮気の心配はなかったんですか?」

「ないですよ。だって正仁さんが私を一番想っているのが分かってるから」

「まったく……。君には敵わないな」

 そう言って絡めとるようにキスしてきた。チョコよりも、うんと甘いキス。微かに香るココアパウダーのほろ苦さ――

 それに思わず、うっとりしてしまう。

「イタズラはこれくらいにして、さっさと帰りますか」

 ひとしきりキスした後に言った、冷静な鎌田先輩の言葉に絶句する。

 ――これがイタズラ!?

「正仁さん、酷いですっ!」

「酷いのはどっちです? 君の残業を手伝った俺に、何もナシですか」

「チョコをあげたじゃないですかって……わっ」

 抱き寄せて、強引に首筋にキスされてしまった。

「あれじゃあ、まだまだ足りません。俺の渇きを癒すには――」

 色っぽい目付きで、じっと私を見つめる。体からはフェロモン出まくりで、否応なしにクラクラした。

「分かりましたから、早く帰りましょうね」

 色っぽい目付きから何とか逃れるべく後ろに回り込み、広い背中をグイグイ押し出しながら部署の電気を消して会社を出社した。

 多分今夜は、寝かしてくれないだろうな。

 コッソリため息をついて、鎌田先輩の腕に自分の右腕を絡めた。

 平日だし寝不足になるのがガンだ。短い夜だけど、糖度が高い夜になる予感。何の糖度が高いかは、言わなくても分かるよね。

 こうしてふたりのバレンタインデーは、無事に終わりましたとさ。

 おしまい
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