ドS上司の意外な一面
まさやんとレディコミ
年末年始は、私の実家で過ごした正仁さん。自宅に帰ってからは毎日暇そうにしているので、これはチャンスだと思った。何とかして、例の本を読ませるために――
「確か、11月号だったような?」
会社の同期から、何冊かレディコミの雑誌を借りていた。借り物なので年末掃除した時に、本棚の上段にまとめて置いていたのだけれど。
「む~……あとちょっとで、取れるのにっ」
背伸びして、ちょっとずつ本をずらしていく。ちょちょいの、ちょい!
「何をしてるんです? 見るからに効率の悪いことをして」
見かねた正仁さんが声をかけながら、優しく手を貸してくれた。左腕で私の肩を抱き寄せながら、右手で本を取ってくれる。
普通に取ってくれればいいのに、こうやっていちいちスキンシップするんだから。
「有り難う……」
単純な接触だけで赤くなってる顔を見られないように、俯いてお礼を言った。
(――さて、問題はここからだ)
本を私に手渡してリビングのソファに座り、再び新聞を読み出した正仁さん。意を決して話しかける前に、読んでもらいたい箇所を探して、と。
「あのっ正仁さん、熱心に新聞読んでるトコなんですけど、是非見て欲しいマンガがあるんです!」
「暇つぶしに新聞を読んでいただけなんで、別にいいですよ」
私に向かって右手を差し出してきたので、読んで欲しい部分を思いっきり開いてから、ずいっと手渡してあげた。
「どれどれ。『社内恋愛二人だけの残業』これまた意味深なタイトルですね」
そりゃそうだよ、レディコミなんですから。
「ふむ、190ページですか、よし!」
いきなり本を閉じる正仁さん。何をするんだろうと首を傾げつつ隣に腰を降ろし、じーっと観察してみた。すると――
パラパラパラパラ……速読術を使ってるように、いきなり早めくりしだした。
速読術って、こうやってマンガもすらすらと読めちゃうものなの!?
「あの正仁さん、その早さで読めてるんですか?」
「読めません。ただ少年マンガとの違いを、少し離れた視点から比べているだけです」
「そうですか……」
――やっぱりね……そりゃ、そうだよ。
「全体的に白い部分が多いですね。背景もやたらと白ぬきが多いせいでしょうか?」
いやそれは単純に、肌の露出が多いせいかと思います。
「さて190ページでしたね。どれどれ……」
出だしからこの状態。表紙を見つめてからは、既に3分が経過しました。
「……正仁さん、表紙をガン見して何を考えているんですか?」
「主人公の女性、目の大きさが顔の半分近くもあって、凄いなぁと思っていたんです。しかも目の中に白い光らしきモノが三つも入っていて、この光線は実際どこからきているものかと、つい探していました」
「はぁ……」
「制服から見えている下着も、実に丁寧に描かれていますね。君も、こういったものが欲しいですか?」
わざわざ指を差して、変な質問してくる始末。――全然本題に進まないじゃない!
「あの~正仁さん、表紙はもういいですから、内容に進みましょうね。この間の問題発言が、きちんと載っていますから」
私は無理矢理に次のページをめくったんだけど、そこでも足止めをくったのである。
「この会社のロッカーとデスクの配置は、見るからに使い勝手が悪そうですね。それだけじゃなく、デスク周りの雑然としたこの状態は、何ですかこれ?」
「デスク周りはどうしてこうなっているか、後から分かります。頼みますから、先に進んで下さい」
私の頼みに渋々、続きを読んでくれたのだけれど――
「この部長、妻帯者のクセに何かにつけて、部下の女性を触りすぎじゃないですか。はたから見たら、明らかにセクハラ行為ですよ」
あからさまに難しい表情を浮かべながら、私の頬っぺたを細長い人差し指でちょんちょんと突ついた。
普段そんな行動しないのでビックリして正仁さんの顔を見ると、片側の口角を上げて意味深にニヤリと笑った。
「なるほど。主人公の女性と同じような表情になるんですね。これは会社で使用しないようにしなければ」
「はいっ!?」
「そんなだらしない顔を、他人に晒したいんですか?」
苦笑いして、呆れたように言い放つ。すみませんね、だらしない顔して――
「こんなムダなスキンシップばかりしてるから、仕事の効率が悪いということが分からないんでしょうか。部長クラスの分際で、まったくもってはしたない!」
ブツブツ文句を言いながら、物凄いスローペースでページをめくっていく正仁さん。まだ少ししか進んでないのにどうして私、こんなに疲れているんだろうか。
たかがレディコミなんだけど正仁さんと読んでいると、まるで経済学でも学んでる気分になる。見る角度が、いちいち違いすぎるんだもん。ごく普通のマンガの読み方をしてほしいのに。
「そうこうしてる内に、ふたりきりになりました。ムムッ!?」
(レディコミ片手に眉根を寄せて、どうしてそんなに難しい顔ができるんだろう)
呆れ果てた私を尻目に、しばらくページを行ったり来たりしてから、唐突に本をテーブルの上に置いてしまった。
そして、じぃっと私を見つめる。
「……なぁ、いいだろ?」
マジメな顔をしながら、きっぱりと言ったのである。そのただならぬ雰囲気に否応なしにドキドキしてしまって、思わず立ち上がってしまった。
「よっ、よくないです! まだ午前中だし、そうこうことをするのは、夜になってからの方がいいと思いますよ。私っ!」
そう、全力で拒否宣言したのにも関わらず――
「どうして君はこの一言で、Hな話だと分かったんですか?」
「へっ!?」
赤面して狼狽える私を見上げた正仁さんは、ワケが分からないという表情を浮かべて肩を竦めた。
「俺はただ『いいだろう』と言って、具体的に何がいいかを言っていないのに、君はその台詞を何であるか、しっかりと理解していました。こういう誘い文句もあるんですね」
「正仁さんにはそんなの全然、必要ないですよ……。笑って流し目するだけで、フェロモン出まくって結果、そういう雰囲気になりますから」
何かよく分からないけど、正仁さんのエロレベルが勝手に上がってしまった気がする。――もしかしてこれって、余計な知恵を与えることになるかも?
私がうんうん頭を抱える傍で眉根を寄せて難しい顔し、再び読書を始めた。
「ああ――主人公の女性をデスクに乗せてコレをするから、こんな使い勝手の悪い配置だったんですね。なるほど!」
「はぁ……」
なるほどなんて感嘆の声を上げられても、どういうリアクションしていいかサッパリ分からない。
「しかしふたりきりとはいえ、突然忘れ物を取りに来る社員や見回りの警備員が来るかもしれないという事態は、頭に入っていないんでしょうか」
「そういう正仁さんも、会社で私に似たようなことを堂々としたじゃないですか」
「ふふっ……。俺のは緻密に計算されています。出入口の角度から君が絶対見えない場所を選んだり、人の来ない時間帯をきちんと狙ったり」
「へ~、そうですか……」
逆に文句を言った私がバカでした、ええ。さすがは私の旦那様って感じです。
「『君とはこうして何度も、社内で朝を迎えたね』って、この台詞をどこかで聞いた気がします」
「まったく、呆れた……。正仁さんが小野寺先輩に言った台詞ですよ! こういうことに使うモノだったんですからね」
左手は腰に当てながら右手人差し指を立てて、きびきびと左右に振りながら、偉そうにレクチャーしてあげた。妙に頭の切れる正仁さんを前にしたら、こんなことでもない限り優位に立てるシーンはないから。
「そうでしたか。俺は事実を述べたまでだったんですが。これじゃあ他の人に、誤解されてしまいますね」
「分かって戴けて何よりです……」
ホッとしたのも、束の間――
「だけどこのふたりは、会社を何だと思っているのでしょう。朝までこんな場所でこんなコトをして。ホテルに行くなり彼女の自宅にしけこむなりした方が、いろんなコトができていいと思いますがね」
いろんなコトって、一体何なの……!? や、あえてそこは突っ込まないほうが身のためだよね。絶対に喜んで、食いついてくるだろうから。
「しかも主人公の女性の最後の台詞、何ですかコレは。『今度は社長室でお願いします』『まったく。君はワガママだなぁ、リザーブしておくよ』って、どれだけ自由に会社を使いまくっているのでしょう」
正仁さんのツッコミどころが、正直分からない。たかが30ページを読むだけで、どうして1時間もかかるの?
だけどいろんな誘い文句の意味を、きちんと理解しただけいいと思わなければ。あれを同性に言ってしまったせいで、周りの目がどれだけ冷たくなってしまったかを正仁さんは知らないんだから。
これ以上、公衆の面前で変なことを口走らないでしょう。
無事に責任を果たして肩の荷が降りた私に、ニヤッと笑いながら追い討ちをかけてくる。
「実際のところ、君も社長室でしてみたいのですか?」
「はいっ!?」
「このマンガを俺に見せた心意は、社長室でしてみたいという願望があるからなのでしょう?」
「…………」
――ちょっと待って。どうして、こうなっちゃうの!?
「うちの会社、意外とセキュリティーが甘いですからね。監視カメラもないですから、今度社長のスケジュールを把握して、それから――」
「正仁さんのスケベ!」
あまりの言動に思わず叫んだ私の顔を見て、きょとんとした。
「スケベですが、何か?」
今更何を言っているんだという表情をありありと浮かべた。そしてあっさりとそれを認めるし、どうしていいか本当に分からない。
「んもぅ馬鹿っ……。正仁さんがあっちのボキャブラリーの知識が全然ないから、マンガを読んでもらっただけなのに!」
「そうでしたか。俺はてっきり」
「そういうコトは、自宅で濃厚なのしてるからいいんですっ!」
背を向けてキッチンに行こうとしたら、後ろから抱き締められてしまった。
「正仁さんっ、ちょっとっ!?」
「ね、いいでしょう?」
そう言って形のいい唇を、私の頬に押しつけてきた。
「よくないですってば!」
「君が昼間から、過激なマンガを俺に読ませるからいけないんですよ。責任、きちんととって下さい」
「うっ――責任とれません……」
「口ではそう言ってますけど、身体はちゃんと責任がとれる準備ができているんじゃないですか?」
「なっ!?」
「読書をして、もの凄く頭を使ったんです。次は身体を使って、しっかりと運動しなければ。お昼ご飯を美味しく戴くために、ね?」
こうして濃厚な運動をしっかりと激しく勤しんだ鎌田夫妻の正月。新年から仲のイイことで何よりです。
おわり
「確か、11月号だったような?」
会社の同期から、何冊かレディコミの雑誌を借りていた。借り物なので年末掃除した時に、本棚の上段にまとめて置いていたのだけれど。
「む~……あとちょっとで、取れるのにっ」
背伸びして、ちょっとずつ本をずらしていく。ちょちょいの、ちょい!
「何をしてるんです? 見るからに効率の悪いことをして」
見かねた正仁さんが声をかけながら、優しく手を貸してくれた。左腕で私の肩を抱き寄せながら、右手で本を取ってくれる。
普通に取ってくれればいいのに、こうやっていちいちスキンシップするんだから。
「有り難う……」
単純な接触だけで赤くなってる顔を見られないように、俯いてお礼を言った。
(――さて、問題はここからだ)
本を私に手渡してリビングのソファに座り、再び新聞を読み出した正仁さん。意を決して話しかける前に、読んでもらいたい箇所を探して、と。
「あのっ正仁さん、熱心に新聞読んでるトコなんですけど、是非見て欲しいマンガがあるんです!」
「暇つぶしに新聞を読んでいただけなんで、別にいいですよ」
私に向かって右手を差し出してきたので、読んで欲しい部分を思いっきり開いてから、ずいっと手渡してあげた。
「どれどれ。『社内恋愛二人だけの残業』これまた意味深なタイトルですね」
そりゃそうだよ、レディコミなんですから。
「ふむ、190ページですか、よし!」
いきなり本を閉じる正仁さん。何をするんだろうと首を傾げつつ隣に腰を降ろし、じーっと観察してみた。すると――
パラパラパラパラ……速読術を使ってるように、いきなり早めくりしだした。
速読術って、こうやってマンガもすらすらと読めちゃうものなの!?
「あの正仁さん、その早さで読めてるんですか?」
「読めません。ただ少年マンガとの違いを、少し離れた視点から比べているだけです」
「そうですか……」
――やっぱりね……そりゃ、そうだよ。
「全体的に白い部分が多いですね。背景もやたらと白ぬきが多いせいでしょうか?」
いやそれは単純に、肌の露出が多いせいかと思います。
「さて190ページでしたね。どれどれ……」
出だしからこの状態。表紙を見つめてからは、既に3分が経過しました。
「……正仁さん、表紙をガン見して何を考えているんですか?」
「主人公の女性、目の大きさが顔の半分近くもあって、凄いなぁと思っていたんです。しかも目の中に白い光らしきモノが三つも入っていて、この光線は実際どこからきているものかと、つい探していました」
「はぁ……」
「制服から見えている下着も、実に丁寧に描かれていますね。君も、こういったものが欲しいですか?」
わざわざ指を差して、変な質問してくる始末。――全然本題に進まないじゃない!
「あの~正仁さん、表紙はもういいですから、内容に進みましょうね。この間の問題発言が、きちんと載っていますから」
私は無理矢理に次のページをめくったんだけど、そこでも足止めをくったのである。
「この会社のロッカーとデスクの配置は、見るからに使い勝手が悪そうですね。それだけじゃなく、デスク周りの雑然としたこの状態は、何ですかこれ?」
「デスク周りはどうしてこうなっているか、後から分かります。頼みますから、先に進んで下さい」
私の頼みに渋々、続きを読んでくれたのだけれど――
「この部長、妻帯者のクセに何かにつけて、部下の女性を触りすぎじゃないですか。はたから見たら、明らかにセクハラ行為ですよ」
あからさまに難しい表情を浮かべながら、私の頬っぺたを細長い人差し指でちょんちょんと突ついた。
普段そんな行動しないのでビックリして正仁さんの顔を見ると、片側の口角を上げて意味深にニヤリと笑った。
「なるほど。主人公の女性と同じような表情になるんですね。これは会社で使用しないようにしなければ」
「はいっ!?」
「そんなだらしない顔を、他人に晒したいんですか?」
苦笑いして、呆れたように言い放つ。すみませんね、だらしない顔して――
「こんなムダなスキンシップばかりしてるから、仕事の効率が悪いということが分からないんでしょうか。部長クラスの分際で、まったくもってはしたない!」
ブツブツ文句を言いながら、物凄いスローペースでページをめくっていく正仁さん。まだ少ししか進んでないのにどうして私、こんなに疲れているんだろうか。
たかがレディコミなんだけど正仁さんと読んでいると、まるで経済学でも学んでる気分になる。見る角度が、いちいち違いすぎるんだもん。ごく普通のマンガの読み方をしてほしいのに。
「そうこうしてる内に、ふたりきりになりました。ムムッ!?」
(レディコミ片手に眉根を寄せて、どうしてそんなに難しい顔ができるんだろう)
呆れ果てた私を尻目に、しばらくページを行ったり来たりしてから、唐突に本をテーブルの上に置いてしまった。
そして、じぃっと私を見つめる。
「……なぁ、いいだろ?」
マジメな顔をしながら、きっぱりと言ったのである。そのただならぬ雰囲気に否応なしにドキドキしてしまって、思わず立ち上がってしまった。
「よっ、よくないです! まだ午前中だし、そうこうことをするのは、夜になってからの方がいいと思いますよ。私っ!」
そう、全力で拒否宣言したのにも関わらず――
「どうして君はこの一言で、Hな話だと分かったんですか?」
「へっ!?」
赤面して狼狽える私を見上げた正仁さんは、ワケが分からないという表情を浮かべて肩を竦めた。
「俺はただ『いいだろう』と言って、具体的に何がいいかを言っていないのに、君はその台詞を何であるか、しっかりと理解していました。こういう誘い文句もあるんですね」
「正仁さんにはそんなの全然、必要ないですよ……。笑って流し目するだけで、フェロモン出まくって結果、そういう雰囲気になりますから」
何かよく分からないけど、正仁さんのエロレベルが勝手に上がってしまった気がする。――もしかしてこれって、余計な知恵を与えることになるかも?
私がうんうん頭を抱える傍で眉根を寄せて難しい顔し、再び読書を始めた。
「ああ――主人公の女性をデスクに乗せてコレをするから、こんな使い勝手の悪い配置だったんですね。なるほど!」
「はぁ……」
なるほどなんて感嘆の声を上げられても、どういうリアクションしていいかサッパリ分からない。
「しかしふたりきりとはいえ、突然忘れ物を取りに来る社員や見回りの警備員が来るかもしれないという事態は、頭に入っていないんでしょうか」
「そういう正仁さんも、会社で私に似たようなことを堂々としたじゃないですか」
「ふふっ……。俺のは緻密に計算されています。出入口の角度から君が絶対見えない場所を選んだり、人の来ない時間帯をきちんと狙ったり」
「へ~、そうですか……」
逆に文句を言った私がバカでした、ええ。さすがは私の旦那様って感じです。
「『君とはこうして何度も、社内で朝を迎えたね』って、この台詞をどこかで聞いた気がします」
「まったく、呆れた……。正仁さんが小野寺先輩に言った台詞ですよ! こういうことに使うモノだったんですからね」
左手は腰に当てながら右手人差し指を立てて、きびきびと左右に振りながら、偉そうにレクチャーしてあげた。妙に頭の切れる正仁さんを前にしたら、こんなことでもない限り優位に立てるシーンはないから。
「そうでしたか。俺は事実を述べたまでだったんですが。これじゃあ他の人に、誤解されてしまいますね」
「分かって戴けて何よりです……」
ホッとしたのも、束の間――
「だけどこのふたりは、会社を何だと思っているのでしょう。朝までこんな場所でこんなコトをして。ホテルに行くなり彼女の自宅にしけこむなりした方が、いろんなコトができていいと思いますがね」
いろんなコトって、一体何なの……!? や、あえてそこは突っ込まないほうが身のためだよね。絶対に喜んで、食いついてくるだろうから。
「しかも主人公の女性の最後の台詞、何ですかコレは。『今度は社長室でお願いします』『まったく。君はワガママだなぁ、リザーブしておくよ』って、どれだけ自由に会社を使いまくっているのでしょう」
正仁さんのツッコミどころが、正直分からない。たかが30ページを読むだけで、どうして1時間もかかるの?
だけどいろんな誘い文句の意味を、きちんと理解しただけいいと思わなければ。あれを同性に言ってしまったせいで、周りの目がどれだけ冷たくなってしまったかを正仁さんは知らないんだから。
これ以上、公衆の面前で変なことを口走らないでしょう。
無事に責任を果たして肩の荷が降りた私に、ニヤッと笑いながら追い討ちをかけてくる。
「実際のところ、君も社長室でしてみたいのですか?」
「はいっ!?」
「このマンガを俺に見せた心意は、社長室でしてみたいという願望があるからなのでしょう?」
「…………」
――ちょっと待って。どうして、こうなっちゃうの!?
「うちの会社、意外とセキュリティーが甘いですからね。監視カメラもないですから、今度社長のスケジュールを把握して、それから――」
「正仁さんのスケベ!」
あまりの言動に思わず叫んだ私の顔を見て、きょとんとした。
「スケベですが、何か?」
今更何を言っているんだという表情をありありと浮かべた。そしてあっさりとそれを認めるし、どうしていいか本当に分からない。
「んもぅ馬鹿っ……。正仁さんがあっちのボキャブラリーの知識が全然ないから、マンガを読んでもらっただけなのに!」
「そうでしたか。俺はてっきり」
「そういうコトは、自宅で濃厚なのしてるからいいんですっ!」
背を向けてキッチンに行こうとしたら、後ろから抱き締められてしまった。
「正仁さんっ、ちょっとっ!?」
「ね、いいでしょう?」
そう言って形のいい唇を、私の頬に押しつけてきた。
「よくないですってば!」
「君が昼間から、過激なマンガを俺に読ませるからいけないんですよ。責任、きちんととって下さい」
「うっ――責任とれません……」
「口ではそう言ってますけど、身体はちゃんと責任がとれる準備ができているんじゃないですか?」
「なっ!?」
「読書をして、もの凄く頭を使ったんです。次は身体を使って、しっかりと運動しなければ。お昼ご飯を美味しく戴くために、ね?」
こうして濃厚な運動をしっかりと激しく勤しんだ鎌田夫妻の正月。新年から仲のイイことで何よりです。
おわり