ドS上司の意外な一面
意外なお願い事
お互いの愛情を表す料理対決をする――どんな食材でも手に入るだろうと、ショッピングモールに向かった。
毎日ではないけれど買い物に出かけている身としては、年末からお正月にかけての人混みはちょっぴり苦手だったりする。そんな私の手を引いて歩いてくれる正仁さんの背中を見ているだけで、とても頼もしく感じた。
繋いでいる大きな掌から伝わってくる温かさで、外にいる寒さを忘れられるのもポイントが高い。
伝わってくるいろんな優しさを噛みしめながら、思いきって話しかけてみる。
「あのぅ正仁さんは、何を作るんですか?」
すると顔だけで振り返り、両目を細めながらやや後方にいる私を見つめ、何かを言いかけてすぐに口を引き結んだ。
「正仁さん?」
「言い出しっぺは自分からなのに、実はまだメニューが決まっていないんです。だけど君は、もう決まっているようですね。顔に書いてあります」
投げかけた私の視線を断ち切るように顔を逸らして前を見つめ、目的地に向かって黙々と歩いて行く。
「正仁さんのことだから、てっきり決まっていると思ってました。ちなみに私はグラタンを作りますよ」
「俺の好物を作るとは、これはますます難しい勝負になりそうですね」
難しい勝負と言った口ぶりとは裏腹に、いかにも楽しそうな正仁さんの表情が解せない。先に手の内を明かした私の浅はかさを、ちゃっかり笑っているかな。
「ちなみに勝負に勝ったら、何が当たるんですか?」
「相手の願いを、ひとつだけ叶えるというのはどうでしょう。何か欲しい物があれば強請ればいいですし、して欲しいことがあれば遠慮せずに言えますよね」
「確かに! これは俄然やる気が出ちゃいます」
繋いでいる手をぎゅっと握りしめながら答えると、肩を震わせてクスクス笑いだした。
「私、何かおかしなことでも言いましたっけ?」
「別に。ひとみの壮大な願いを叶えなければならない、己の身を案じただけです。すでに気合い負けしそうですよ」
「どういうことですか?」
言ってる意味が分からなくて小首を傾げた私を、正仁さんは意味深な流し目で見つめた。
「正月早々真昼間から、旦那の隣で堂々と卑猥な雑誌を読みふける君のお願い事は、間違いなくソッチ系のことでしょう。そんなリクエストに応えるのは、大変だろうなぁと思ったんです」
「ひどい! 私、そんなことを頼んだりしませんからね。正仁さんこそ、変なお願いをする気なんじゃないですか?」
イラっとしたので、繋いでいた手を振り解いた。暇つぶしに雑誌を読んでいただけだったのに、こんな風にとられるなんて思いもしなかった。
「まさか。俺の願いは至って普通です。ひとみが考えるような、卑猥なものじゃありませんよ」
せせら笑いながら見下ろしてくる正仁さんの顔が、本当に憎たらしい!
「ひとみの怒りが収まりそうもないので、別々に行動しましょうか。ちょうど目印になりそうなファーストフード店もあることですし、30分後ここに集合ということでよろしく」
言うなり駆け出して行った正仁さんの後ろ姿を、ぼんやりと見送った。さっきまで繋いでいた手の温もりが瞬く間になくなっていくのが寂しくて、ぎゅっと掌を握りしめる。
唐突に提案された勝負といい今の話といい、さっきからずっと正仁さんのペースに乗せられっぱなしで、反論する暇を与えない彼の采配になすすべがなかったのだった。
毎日ではないけれど買い物に出かけている身としては、年末からお正月にかけての人混みはちょっぴり苦手だったりする。そんな私の手を引いて歩いてくれる正仁さんの背中を見ているだけで、とても頼もしく感じた。
繋いでいる大きな掌から伝わってくる温かさで、外にいる寒さを忘れられるのもポイントが高い。
伝わってくるいろんな優しさを噛みしめながら、思いきって話しかけてみる。
「あのぅ正仁さんは、何を作るんですか?」
すると顔だけで振り返り、両目を細めながらやや後方にいる私を見つめ、何かを言いかけてすぐに口を引き結んだ。
「正仁さん?」
「言い出しっぺは自分からなのに、実はまだメニューが決まっていないんです。だけど君は、もう決まっているようですね。顔に書いてあります」
投げかけた私の視線を断ち切るように顔を逸らして前を見つめ、目的地に向かって黙々と歩いて行く。
「正仁さんのことだから、てっきり決まっていると思ってました。ちなみに私はグラタンを作りますよ」
「俺の好物を作るとは、これはますます難しい勝負になりそうですね」
難しい勝負と言った口ぶりとは裏腹に、いかにも楽しそうな正仁さんの表情が解せない。先に手の内を明かした私の浅はかさを、ちゃっかり笑っているかな。
「ちなみに勝負に勝ったら、何が当たるんですか?」
「相手の願いを、ひとつだけ叶えるというのはどうでしょう。何か欲しい物があれば強請ればいいですし、して欲しいことがあれば遠慮せずに言えますよね」
「確かに! これは俄然やる気が出ちゃいます」
繋いでいる手をぎゅっと握りしめながら答えると、肩を震わせてクスクス笑いだした。
「私、何かおかしなことでも言いましたっけ?」
「別に。ひとみの壮大な願いを叶えなければならない、己の身を案じただけです。すでに気合い負けしそうですよ」
「どういうことですか?」
言ってる意味が分からなくて小首を傾げた私を、正仁さんは意味深な流し目で見つめた。
「正月早々真昼間から、旦那の隣で堂々と卑猥な雑誌を読みふける君のお願い事は、間違いなくソッチ系のことでしょう。そんなリクエストに応えるのは、大変だろうなぁと思ったんです」
「ひどい! 私、そんなことを頼んだりしませんからね。正仁さんこそ、変なお願いをする気なんじゃないですか?」
イラっとしたので、繋いでいた手を振り解いた。暇つぶしに雑誌を読んでいただけだったのに、こんな風にとられるなんて思いもしなかった。
「まさか。俺の願いは至って普通です。ひとみが考えるような、卑猥なものじゃありませんよ」
せせら笑いながら見下ろしてくる正仁さんの顔が、本当に憎たらしい!
「ひとみの怒りが収まりそうもないので、別々に行動しましょうか。ちょうど目印になりそうなファーストフード店もあることですし、30分後ここに集合ということでよろしく」
言うなり駆け出して行った正仁さんの後ろ姿を、ぼんやりと見送った。さっきまで繋いでいた手の温もりが瞬く間になくなっていくのが寂しくて、ぎゅっと掌を握りしめる。
唐突に提案された勝負といい今の話といい、さっきからずっと正仁さんのペースに乗せられっぱなしで、反論する暇を与えない彼の采配になすすべがなかったのだった。