ドS上司の意外な一面
act:意外な優しさ(鎌田目線3)
***
気味の悪い小野寺の視線を振り切り、足早に資料室へと向かう。相当慌てて入室したのだろう、扉が大きく開け放たれたままになっていた。
手に取るように分かるその様子に思わず苦笑いしながら中に入ってみると、真剣な顔をしてファイルと格闘している、愛しい君の姿があった。
(そんな姿を、いつまでも眺めていたい――)
物音を立てないよう資料室の隅に移動し、声をかけずにじっと見つめた。
何とかしてやろうとする勇姿にコッソリと胸をときめかせていたら不意に顔を上げ、扉に掛けてある入室記録簿をチェックし始める。いい所に気が付いたらしい。
思わず笑ったら、突然君が振り向いた――どうしてここにいるんだと顔に書いてある様相は、さらに笑いを誘うものだったが、それだけ集中して探していたんだろう。
俺が自分のミスを口にし頭を下げたら、途端に君の顔が曇った。しかも後ろから眺めていたことに、苦情を述べられる始末。そんな生意気なところさえ、可愛くみえるなんて相当重症だ。
資料室の正しい使い方と無駄じゃない時間のことを教えると、一瞬にして態度が変わる。表情がコロコロと百面相。シュンとしている君を励ましたくて、頭を撫でてあげた。
フワフワな髪が、指にまとわりつく。
ドキッとしたのを悟られぬように、無機質な声で指示をしてしまう。当然、君の顔は曇ったままだったが、頬が赤くなっていたのは見間違いだったのかな。
気を取り直して、伝えなければならない資料のことを言ってみる。
「最後までしっかり、確認して下さい」
とだけ言うつもりだったのに思わず、いらない言葉が口から飛び出してしまった。資料室に向う前の小野寺とのくだりが、どうしても胸に引っかかっていたのだ。
思わず考えこむ――小野寺と喋ると妊娠するぞ。なぁんて脅すべきか、それとも他に何かいい言葉が見つからないだろうか……。
考えあぐねていたら焦れた君が声をかけてきたので仕方なく諦め、普通に注意を促すしかなかった。今は、これしか思い付かない。
しっかりお辞儀をして去っていく君の後ろ姿を見ながら、髪に触れた手をそっと握りしめた。
たったこれだけのことで、舞い上がる自分に苦笑してしまう。
――こんなにも、君に惹かれているなんてな――
そんな嬉しさを噛みしめながら、彼女の後を追うように足早に部署に戻った。そして自分のデスクを見たとき、何となく違和感を覚えた。物の配置が、微妙にズレていたのだ。
こういう場合、何かなくなっている物がある。今までの経験上それが分かっていたので、探す行為は容易なことだったのだが。
重要書類の確認、ファイルの中、パソコンのデーター。仕事上の物は、何も盗られていなかった。用心のためにこれからは鍵のかかる引き出しに、書類関係を片付けることに決める。
他になくなっている物をチェックしていく内に、書類に挟んでいたアレが無くなっているのに気がついた。あんな駄作を盗っていったヤツの気が知れない。
自作の歌詞の盗難――ここでコッソリと、歌詞を書くことができなくなってしまった。彼女の姿を目に留めるだけで、自然と歌詞が浮かび上がってきたのに。
だが一体、誰の仕業なんだろうか……?
気味の悪い小野寺の視線を振り切り、足早に資料室へと向かう。相当慌てて入室したのだろう、扉が大きく開け放たれたままになっていた。
手に取るように分かるその様子に思わず苦笑いしながら中に入ってみると、真剣な顔をしてファイルと格闘している、愛しい君の姿があった。
(そんな姿を、いつまでも眺めていたい――)
物音を立てないよう資料室の隅に移動し、声をかけずにじっと見つめた。
何とかしてやろうとする勇姿にコッソリと胸をときめかせていたら不意に顔を上げ、扉に掛けてある入室記録簿をチェックし始める。いい所に気が付いたらしい。
思わず笑ったら、突然君が振り向いた――どうしてここにいるんだと顔に書いてある様相は、さらに笑いを誘うものだったが、それだけ集中して探していたんだろう。
俺が自分のミスを口にし頭を下げたら、途端に君の顔が曇った。しかも後ろから眺めていたことに、苦情を述べられる始末。そんな生意気なところさえ、可愛くみえるなんて相当重症だ。
資料室の正しい使い方と無駄じゃない時間のことを教えると、一瞬にして態度が変わる。表情がコロコロと百面相。シュンとしている君を励ましたくて、頭を撫でてあげた。
フワフワな髪が、指にまとわりつく。
ドキッとしたのを悟られぬように、無機質な声で指示をしてしまう。当然、君の顔は曇ったままだったが、頬が赤くなっていたのは見間違いだったのかな。
気を取り直して、伝えなければならない資料のことを言ってみる。
「最後までしっかり、確認して下さい」
とだけ言うつもりだったのに思わず、いらない言葉が口から飛び出してしまった。資料室に向う前の小野寺とのくだりが、どうしても胸に引っかかっていたのだ。
思わず考えこむ――小野寺と喋ると妊娠するぞ。なぁんて脅すべきか、それとも他に何かいい言葉が見つからないだろうか……。
考えあぐねていたら焦れた君が声をかけてきたので仕方なく諦め、普通に注意を促すしかなかった。今は、これしか思い付かない。
しっかりお辞儀をして去っていく君の後ろ姿を見ながら、髪に触れた手をそっと握りしめた。
たったこれだけのことで、舞い上がる自分に苦笑してしまう。
――こんなにも、君に惹かれているなんてな――
そんな嬉しさを噛みしめながら、彼女の後を追うように足早に部署に戻った。そして自分のデスクを見たとき、何となく違和感を覚えた。物の配置が、微妙にズレていたのだ。
こういう場合、何かなくなっている物がある。今までの経験上それが分かっていたので、探す行為は容易なことだったのだが。
重要書類の確認、ファイルの中、パソコンのデーター。仕事上の物は、何も盗られていなかった。用心のためにこれからは鍵のかかる引き出しに、書類関係を片付けることに決める。
他になくなっている物をチェックしていく内に、書類に挟んでいたアレが無くなっているのに気がついた。あんな駄作を盗っていったヤツの気が知れない。
自作の歌詞の盗難――ここでコッソリと、歌詞を書くことができなくなってしまった。彼女の姿を目に留めるだけで、自然と歌詞が浮かび上がってきたのに。
だが一体、誰の仕業なんだろうか……?