嘆きの断片
◆世界の境界線
*ビールと伽羅
──都内、某所
深夜の住宅街は、どこか別世界への扉を孕む空気をまとっている。
春になろうかという青い薫りの背後には、先にあった凍える空の断片が散らばっていた。
切れかけて点滅を繰り返す街灯はともすれば、何かの影を落とし込み、眠れぬ人の恐怖を具現化していく。
「おい。本当にいるのか」
「要請が来たのですから、何かがいるのは確かでしょう」
二人の男は、住民に気を遣うように小声で英語を使い何やら話していた。
何かを探るように男たちはしばらく彷徨(うろつ)いていたがふと、立ち止まる。
「だめだな」
「ええ。これだけ負の気が充満していては、見当もつきません」
丁寧に答えた男は垂れた目で住宅街を見回し、彼らだけに解る、重々しい空気に顔を歪ませる。
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