嘆きの断片
五月蠅(うるさ)くない程度に流れている音楽はラジオのものだろう。年代が統一された音楽を流すラジオ局があると聞いた事がある。

 ラクベスには日本どころか世界の音楽事情すらわからないが、耳障りな音量でもないため新鮮な気持ちで聞くことが出来た。

 店主を呼んでアイスコーヒーを頼みスマートフォンを手にする。落ち着き払ったラクベスとは対照的に、常連たちは見慣れない客の来店に視線が定まらない。

 そうして、運ばれてきたアイスコーヒーは紙製のコースターに乗せられる。

 銅製のカップは入れられている氷の冷たさを素早く全体に伝え、流れ落ちる結露がコースターに染みこんでいく。

 イギリス人であるラクベスには紅茶だろうと思われるが、彼はコーヒーも好んで飲む。薫りを楽しんでから少量を口に含み、予想していたよりも美味しいと目を細める。

 常連客は年配の女性が多く、上品に振る舞うラクベスの表情に見惚れていた。
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