嘆きの断片
「犯人は死亡?」

 ラクベスは資料を見て苦い表情を浮かべた。

「ああ。自殺だよ」

 夢木は視線を向けずに仏頂面で答えた。

 吉佐 良平(きさ りょうへい)──犯人は当時、四十五歳だった。何かを睨みつけ、暗い顔をした男だ。職についておらず、住んでいた町の住民との仲も良くは無かった。

「何か知っていますか」

 彼の口調からして、この件について記憶していることがあるようだ。

「被害者に報告に行ったのは俺だ」

「詳しく聞かせてもらえませんか」

「詳しくも何も。そいつが自殺したってだけだ」

「自殺するような奴なのか」

 パーシヴァルの質問に夢木は眉を寄せた。それだけで、自殺に違和感を示していることがわかる。

「吉佐は模範囚だったことで十五年の刑期が縮まり、十年そこそこでムショから出た」

 模範囚を通したのは凄いが、早く出るために継続させたに過ぎない。
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