嘆きの断片
「現にあいつはムショから出てすぐ、職探しをするでもなく。町をぶらついてカツアゲをやってた。喧嘩なんて日常茶飯事だ」

 そんな奴が自殺? あり得ない。

「それでも、自殺以外には考えられなかった」

 設置されていた防犯カメラがそれを物語っている。

「どんな風に死んだんだ」

「線路に入って電車にひかれたよ。何かに誘われるようにしてな」

 それを聞いた二人は見合い、表情を険しくした。

「彼はそれを聞いてなんと?」

「あ? 特には何も──そりゃあ、口元が緩んではいたがよ」

 家族を殺した奴が死ねば、ちょっとは喜ぶだろうし。

 耳を傾けつつ箱の中身を探っていたラクベスの手が止まる。眉間に深いしわを刻み、手にしたものをゆっくりと持ち上げた。

 ジップ付きの袋に入れられた血まみれの淡い水色のシャツは、吉佐が死んだときの状況をまざまざと見せつけていた。
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