嘆きの断片
「邪魔、ヲ、スル、ナ」

 かつての石動(いするぎ)はその姿だけでなく、声すらも醜悪に成り果てている。吐き出す息は黒いもやとなり、今や不運をまき散らす異形の者だ。

 ラクベスは、這いつくばってこちらを睨みつける石動に目を細める。

 彼が幸せだった頃の画像とはほど遠い眼前の姿は、それほどの苦しみが彼の心を蝕(むしば)み、自らの能力(ちから)に振り回された結果に他ならない。

 その力さえなければ、私やパーシーと会うこともなかったかもしれない。

「たられば」を並べたところで好転する訳じゃないと解ってはいても、能力(ちから)を持つが故に皮肉な運命を選んだ石動に悔しさは否めない。

 彼に起きた悲劇は同情に値する。

「それでも──」

 それでもなお。私は、あなたを止めなければならない。
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