嘆きの断片
 現在のところ栽培に成功していない伽羅だが、人知れず栽培されている場所がある。

 それらは決して人の世には出ず、限られた者のみが使用する事を許されている。

 そこから採集される天然沈香で作られた線香には特殊な力が宿され、立ち上る煙と薫りが横たわっている男をいま護っているのだ。

 青年は香皿に線香を乗せ、窓の外に意識を向ける。

「見つかるといいのですが」

 不安げにつぶやき、男の体から伸びている細く白い糸に眉を寄せた。




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