人狼王子と獣使い少女
「村の若い男たちが、最近騒いでいるよ。ジルが人間じゃなかったら、すぐにでも恋人にするのにって。色も白いし、トパーズ色の瞳は宝石のようだし、ずっと眺めていても飽きないって誰かが言ってたな。ま、ジルに手出しするような奴がいたら、僕が許さないんだけどね」


兄としての建前でも、そんなことを言われてジルが嬉しくないわけがない。


ドキドキする胸を必死に抑えながら、「でも、フローラの方が百倍くらい綺麗よ」と、話をすり替え照れを誤魔化してみる。


フローラは、村一番の美人だ。ピンクブラウンの髪に、優しげな目もと、そして柔らかそうな毛並みのしっぽ。プロポ―ションも抜群だし、性格も温厚で優しい。


「あ~、そうかな……」


するとクロウは、なぜか言葉に詰まるのだった。





違和感を感じたジルは、クロウの顔を覗き込む。何だか少し、顔が赤い。


その時、ジルはクロウの胸もとで揺れるペンダントに気づいた。皮の紐の先にサーモンピンクの鳥の羽をつけたそのペンダントに、ジルは見覚えがあった。


たしか、フローラがいつも肌身離さず身に付けているものだ。


「それ、フローラに貰ったの……?」


胸騒ぎを感じつつ、恐る恐る聞いてみる。


クロウとフローラは、幼なじみだ。会う度に仲良さそうにしているし、美男美女とあって、並んでいる姿もサマになる。


「……うん、そう」


観念したように、クロウが笑った。


恥ずかしそうな、幸せそうな笑顔。クロウがそんな顔をするのを、ジルは初めて見た。


「ジルには、もう内緒に出来ないな。実は、付き合ってるんだ。先月から」
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