人狼王子と獣使い少女
一瞬にして、新緑に満ちたジルの視界が暗転した。


胸が、押しつぶされそうなほどに苦しい。


それなのにジルの口は、信じられないほどに軽快に動くのだった。


「そうなんだ。おめでとう! お似合いだなって、前から思ってたの」


「ありがとう。実はさ、そのうち結婚したいって思ってる。まだ早いって、父さんには叱られそうだけど」


「いいんじゃない? だって、二人とももう二十二でしょ? 私より、四歳も上じゃない」


「あ、今密かに自分の若さを自慢したな」


「あはは。クロウ、考えすぎ」






どうか、上ずっている自分の笑い声に、クロウが気づきませんように。


どうか、クロウとフローラの幸せを心から願えない薄情な自分に、クロウが呆れませんように。


どうか、どうか。







ジルは、目を閉じる。


胸に過るのは、常日頃からジルを苦しめてやまない、あの考えだった。


もしも私も獣人だったら、クロウの恋人になれたかもしれないのに。


もしも、人間じゃなかったら……。


自分が人間であることに、これほどまで苦しんだことは、ジルは今までなかった。








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