人狼王子と獣使い少女
華奢なジルの体が、激しく地面に叩きつけられる。


鉄の味が、じんわりと口の中に広がった。どうやら叩きつけられた衝撃で、口の中が切れてしまったようだ。


「ジル……っ」


慌ててジルを抱き起したクロウが、不安げに顔を覗き込んでくる。


「……大丈夫か? 口が切れてる……」


クロウの金色の瞳が、哀しげに揺らぐ。


「ごめんな、僕のせいで……」


「こんなの平気よ。それに、クロウのせいなんかじゃないわ」


ジルは片手で口の端をぬぐうと、体を起こし大男をきつく睨んだ。





「なんだ、この女。生意気な目をしやがって。人間のくせに、獣人の味方をしやがるのか?」


男の怒りの矛先が、ジルに切り替わる。


まけじと、ジルは大男を睨み続けた。


「人間とか獣人とか、そういうことじゃないわ。クロウはクロウよ。私の大事な家族を傷つける人は、誰であろうと許せない」


ジルの言葉に、大男はきょとんと目を丸くした。それからさもおかしそうに、豪快な笑い声を響かせる。


「ハハハ、獣人が家族だと!? あんた、本気で言ってるのか? 獣人は凶暴で下等な生き物だ。エドガー王子が定めた、人間は獣人と親しくしてはいけないという決まりを、まさか知らないのか?」
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