人狼王子と獣使い少女
ジルは、ぎりっと歯を食いしばった。なんて理不尽な言い分だろう。獣人への風当たりが、これほどまでに強いとは思わなかった。それもこれも、全てエドガーとかいう無能な王子のせいだ。


「獣人は、凶暴でも下等でもないわ。そんな決まりを定めたエドガー王子の方が、よほど下等だわ」


ジルの放った一言がよほど強烈だったのか、大男をはじめ、辺りがシン……と静まり返る。ジルは構わず、背後にいるクロウを振り返った。こんなところに、これ以上居たくはない。


「クロウ、もう行こう」


ところが、立ち去ろうとする二人を「待て」と呼び止める者がいる。


振り返れば、いつの間に大男の前に回り込んだのか、長身の男がジルと向かい合うようにして立っている。


短く刈りこんだ鳶色の髪の、若い男だった。年は、ジルと変わらないくらいだろうか。漆黒の外套を羽織り腰から剣を提げている装いから察するに、城の傭兵のようだ。だが、片目を黒の眼帯で覆い、片方しか見えない目でぞっとするほど冷えた視線をジルに注ぐ様には、傭兵と言うより山賊に近い不気味さがある。





「女、今なんて言った?」


ひどく淡々とした調子で、眼帯の男が言った。顔には、氷のようにぬくもりがない。


「リック様だわ」
「エドガー王子の側近の、リック様だ」


辺りから、ヒソヒソと耳打ちし合う声が聞こえる。町の人々の怯えた口調から、このリックという男にはそれなりの権力があることが窺えた。


ジルが口を閉ざしていると、リックは再び聞いてくる。


「聞こえないのか? もう一度聞くぞ。エドガー様のことを、なんと言った?」


「……下等だと、言いました」


身じろぐことなく、ジルは言い切った。するとリックは、目に見えて瞳に殺意を漲らせた。


「エドガー様を侮辱するやつは、たとえ女であろうとも俺は容赦しない」


リックが、華麗な身のこなしでスッと腰に差した剣を抜く。


宙に振り上げられた銀色の剣が妖しく光るのを見て、ジルの胸に今さらのように恐怖心が押し寄せた。


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