人狼王子と獣使い少女
ジルは決意を固めると、クロウのもとへと駆け寄った。


「クロウ、こっちを向いて!」


男の首筋を貪るクロウの両肩をきつく掴み、声を張り上げる。


「ウ~~ッ!!」


捕食を阻止されたことに不機嫌そうな表情を浮かべ、クロウがジルを振り返る。その口もとは男の血で染まり、ぎらつく金色の瞳は完全に理性を失っていた。


「ああ、ば、バケモノ……!」


その隙に、大男は無我夢中で立ち上がり、血の滴る首もとを押さえながら逃げ出した。


くわっとクロウが牙の光る口を開け、今度はジルに襲いかかろうとする。


猛獣さながらのクロウの顔を前に、ジルはそっと呟いた。


「……クロウ、大好きだよ」


ジルのこの告白は、獰猛化しているクロウの耳には届いていないだろう。今のジルにはそれがありがたくもあり、悲しくもあった。


(フローラ、ごめんなさい)


迫りくるクロウの両肩に手を置き、ジルはそっとクロウの上唇に自分の唇を寄せた。

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