人狼王子と獣使い少女
ランバルドはクロウの父親で、ジルの育ての親にあたる。クロウは、ジルの兄のような存在だ。


ジルは、物心もつかない頃にこの獣人村に捨てられていた人間の子供だ。


敵対する人間の子供であるジルを、最初村の獣人たちは皆怖がった。誰も、泣いている幼いジルに関わろうとはしなかった。


だがランバルドだけはジルに優しい言葉をかけ、家に連れ帰り、まるで自分の本当の娘のように大切に育てたのだ。






あれから十二年。ジルはすっかり獣人の世界に溶け込んでいた。


ジルのように獣人に親しんでいる人間は、珍しいらしい。だからランバルドは、この村をなるべく離れないようにと、いつもジルに言っていた。


町へ行って人間たちの好奇の視線にさらされたら、傷つくのはジルだからだ。


そのためジルは、今まで一度も町に行ったことがない。





二人は、町に行く支度をするために母屋に戻ることにした。


辺りには緑が生い茂り、甘い花の香りを風が運んでくる。丘に立つランバルドの家からは、獣人の里全体が見渡せる。


サラサラと流れる小川に、緩やかに回転する水車。丘に広がる広大な畑、ポツポツと点在する煉瓦造りの家々。人間たちに町を追われた獣人たちはこの丘にいつしか集い、畑を耕すようになった。


ここ以外にも、獣人たちが人間から隠れるようにして暮らしている村が、世の中にはいくつかあるらしい。


獣人たちの収入は、時折町で農作物を売って得られるわずかな金額だけだ。あとは、自給自足で暮らしをまかなっている。





眼下に広がる景色を歩きながらジルが眺めていると、ふとクロウがジルのライトブラウンの髪に触れた。


サラリ、とクロウの指の間を髪の毛が流れていく。目線を上げれば、間近に優しげに細められたクロウの瞳があった。


ジルは、瞬く間に顔を赤くする。クロウは、無自覚にこうやって触れてくる時があるからタチが悪い。


「髪、伸ばさないの? いつもこの長さだ」


獣人は、髪が人間ほど伸びない。だから獣人の女たちの髪は、皆肩につくかつかないかの長さだ。


獣人に憧れて、ジルはいつも自分の髪を獣人の女たちと同じように切っていた。


「伸ばさないわ。どうして?」


「だって、人間の女たちは、皆髪が長いだろ?」





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