人狼王子と獣使い少女
ジルは着替えを済ませたあと、クロウとともに一頭立ての馬車に乗り込んだ。


洗いたての真っ白なワンピースは、ジルのお気に入りだ。エメラルドグリーンの編み上げベストを胸もとでぎゅっと絞れば、スカートがふんわりと広がって気持ちが弾む。令嬢が着るドレスのような華やかさはなく丈も短めだが、村娘であるジルには充分な代物だ。


このワンピースは、ランバルドの妻であるエレナが作ってくれたものだった。夫と同じく優しさに満ち溢れているエレナも、ジルを本当の娘のようにかわいがってくれている。感謝してもし切れないほどの想いを、ジルは二人に感じていた。





「こっちがモントリオール夫妻から、そしてこれがデニスじいさんからの頼まれものだ」


御者席にいるクロウに、ランバルドが次々とメモを渡していく。人里離れて暮らしている獣人は、こういった買い出しの際は村中の人間に必要なものがないかを聞き回り、言付かるのが習わしだ。


この村の獣人たちは、そうやって助け合って暮らしている。


「了解。暗くなる前には帰るよ」


「気をつけてな」


ランバルドは、クロウに向けて深く頷いた。それから、隣にいるジルを見る。


「年頃の娘がずっとこの村に閉じこもっているのもかわいそうだと思ってな、今日はクロウにお前を連れて行ってもらうことにしたんだ。バルザックには色々な品物があるから、楽しいぞ。渡した金で、髪飾りなんかを買ってもいいからな。ただし、人間にはくれぐれも注意するんだぞ」


「ありがとう、ランバルドさん」


ジルは、微笑んでそれに答える。もちろん、大事なお金で私物を買うつもりなど、全くない。けれども断っても、ランバルドは遠慮するなと返すだけだろう。ダークブラウンの耳に同じ色の顎髭をたくわえた目の前の獣人は、そんな優しさの塊のような男だ。





「……ジル、くれぐれも気をつけて。クロウ、ジルを頼むわね」


エレナが、ランバルドの隣で心配そうな声を出す。クロウに似た艶やかな金髪を後ろで束ねたエレナは、美しい中年女性だ。そして、心優しい。


「わかったよ、母さん」


エレナに優しい笑みを向けると、クロウは手綱を強く握りしめた。

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