キミは主人公。~短編恋愛集~
「え、ちょ、優斗!」
逃げるなんてほんと俺、かっこわりぃ。
情けなさと悔しさと、今まで認めようとしなかった気持ちに向き合わされて、涙が止まらなかった。
男なのに泣くなんて、ほんと、カッコ悪すぎだよ俺。
「おい、優斗!待てって!そっちの階段、今日の五時からワックスがけするって聞いてなかったの!?」
追いかけてきた茉耶の興奮したでかい声に、俺は急ブレーキをかけた。
ほんと、こういうとこ(ry
余計恥ずかしくなって赤面したまま顔を合わせられないでいると、茉耶が、
「私考えたんだけどさ、やっぱり優斗に話したよ、“カレシ”のこと。」
と言って、携帯の画面を見せてくる。
恐る恐る受け取って画面を見ると、そこには凛々しい猫が写っていた。
「四年前、捨てられてるの保護して飼ってるの。言わなかったっけ、女の子なのにお母が“カレシ”って名前付けたって話。」
そういや、猫がどうとか、前に話してたような…?
思い出そうとする細胞が、頭の中を猛スピードで駆け巡る。
駆け巡ったおかげか、思い出した。
去年のちょうど今頃__
「まーやー、親と喧嘩した!お前んち行っていい?」
冗談でそう言うと、茉耶は携帯をいじりながら言った。
「んー、家、猫いるよ?」
「俺猫めっちゃ好きぃ!あ、でもアレルギーなんよなぁーー写真見せてよ!」
茉耶が見せてくれた写真の猫は、白地に黒の模様が入った雑種で、まろ眉がちょんっとついていた。
「かわいいっ。名前は?何歳?」
「歳はようわからん。三年前くらいに公園に捨てられててさ、親の反対押し切って飼うことにしたんよな。その代わりお母が名前つけるって利かなくて…」
「へぇー優しいんだな、お前。」
__________
わー…ハッキリ思い出した。
ゴリラだと思ってたけど、優しいとこあるじゃん、って思ったきっかけ。
それに、茉耶、
「そういや、高校入ってから猫飼ってること誰かに言うの初めてだわ。」
とも言ってた。
なんだ、ちゃんと親友じゃん。
誰にも言ってないこと、言ってくれてたじゃん。
でも、なんか、なんか、違う。
「えー…もしかして忘れてた?優斗がアレルギーだって言うから毎朝制服コロコロして猫の毛取ってきたりさ、結構配慮してたんだけど。」
茉耶は呆れたように、俺の手から携帯を回収し、ポケットにしまった。
俺のために、毎朝コロコロしてるんか…。
性格ゴリラとか、訂正。
最初から知ってた。茉耶がめっちゃ性格良い出来た子だって。
「てか、彼女放置でいいの?一緒に帰るとかした方がいいよ。」
茉耶が、少し寂しそうな顔をしながら無理矢理口角を上げて、ニコリと笑う。
どうしようもなく茉耶が可愛く見えて、茉耶に彼氏とか考えたくなくて、このまま親友ポジなんて辛くて、
気が付いたら茉耶を抱き締めてた。
「…彼女なんていないもん。茉耶が寂しがるかなと思って嘘ついたのに、茉耶全然平気そうだし、茉耶が彼氏いるとか言うから焦ったんだもん。」
男らしくもなくグズグズ泣きながら、茉耶の肩に頭をコツンと乗っけた。
「…暴走してごめん。」
ボソッと、茉耶の耳元で謝る。
謝ることは、本当に苦手だ。
でもそんな俺に対して茉耶は、優しくポンポンと俺の背中を叩いた。
「平気じゃなかったよ。優斗が放課後邪魔しに来なくなって、休みの日どっか遊びに行くことも無くなって、優斗の隣は私じゃなくて彼女さんなのかーって思ったら気が気じゃなかった。」
茉耶の言葉に、俺は涙でグズグズになった顔をあげ、茉耶を見つめると、
いつもは堂々としている茉耶の顔が、少し赤くなって恥ずかしそうだった。
あー、ダメ。そんな顔されたらさ、認めるしか無いや。
「俺、茉耶のこと好き。」
茉耶を抱き締めていた左手で涙をガシガシ拭き、ポンっと口からこぼれ落ちるように気持ちを伝えた。
今までの告白より短くて、心臓が破れそうな、そんな告白。
俺の言葉に、茉耶はフフッと女の子みたいに笑いながら、
「私も好きだよ。一年半ずっとね。」
と答えてくれた。
顔を見るのが恥ずかしくて、俺はまた茉耶を抱き締めた。
茉耶は、今度はいつもみたいにケケッと笑いながら、
「嘘つきな親友はいらねぇー」
と言った。
「嘘つかない恋人はどうっすか、茉耶パイセン?」
「ウェルカムっすよ優斗パイセン。」
茉耶はそう言ってまた、ケケッと笑った。
良いところより悪いところの方が多くて、時々嫌になるけど、
それでも茉耶の隣が、心地良い。
そんな、九月の春。
親友は嘘つき___________end.