キミは主人公。~短編恋愛集~
「…付き合うのかなぁ。」
輝にあげるはずだった市販の甘いミルクチョコを、一人寂しく、屋上に繋がる、生徒会室前の階段で食べた。
輝は、中学三年生になってから、私より小さかった癖に身長がぐんと高くなって、ちょっとばかしかっこよくなった。
だからって、可愛い子にデレデレしちゃってさ。
口の中で転がしたチョコは、私には甘すぎて胸がモヤモヤする。
はぁ…と大きなため息をついた時、生徒会室から丁度出てきた後輩君と目が合う。
「…会長、失恋っスか?」
戸惑った後輩君の言葉に、泣きたくもないのに涙が落ちた。
後輩君は何かを悟ったように、
「泣いてるとこ誰かに見られますから、中入りましょ。」
と優しく私を引き入れ、顧問が学校に内緒で生徒会室に持ち込んだコーヒーメーカーで温かいブラックコーヒーを淹れてくれた。
少し落ち着いた私は、後輩君に、「別に失恋なんかじゃないからね。別に好きじゃないもん。」と、少し抵抗したあと、また少し泣いた。
後輩君は呆れたように、でも優しい声で、
「いい加減認めたらどうっスかー、どっからどう見ても、副会長のこと大好きオーラ出てますよ。」
と、笑った。
ひねくれてる私は、相変わらず、「好きじゃないもん」と呟きながら、チョコで満たされた口の中の甘さをかき消すようにコーヒーを飲んだ。
「いい加減認めないと、ほんとに誰かに取られちゃいますよ。あ、そうだ、これ」
そう言って、コーヒーメーカーを片しながら、後輩君がポケットからチョコを取り出し、私に差し出した。
「そんな甘いチョコ食ってないで、これでもどーぞ。逆チョコっス。チョコ嫌いな会長でも多分食えますよ、めっっっちゃ苦いの選んだんで。」
後輩君がくれたビターチョコは、口の中にいれても甘くなく、コーヒーによく合った。
でも、何か物足りなくて、心が寂しい。