キミは主人公。~短編恋愛集~
「その開封済みのミルクチョコ、副会長にあげないんなら俺にくださいっス。トレードしましょ。」
後輩君が、最初からそれが狙いだったかのようにニヤリと笑って、私が持っていたチョコを手に取る。
チョコの銀紙をめくりながら、冗談っぽく
「来月の生徒会長戦、推薦よろしくっスよ♪」
と笑い、チョコを口にしようとした瞬間、後輩君の後ろから手が伸び、パッとチョコを奪うとそれを口にいれた。
全然気配がしなかったものだから、ビックリして見上げると、そこには少し汗をかいた様子の輝がいた。
「未来の生徒会長さん、そのチョコと、君が片想いしてるマドンナの手作りチョコ、交換しない?」
すっかり背も高く、声も低くなったけど、微笑んだときの顔は昔と何も変わらない。
「ま、交換っていうか…これ、君宛てのチョコでさ、姿が見えないから代わりに渡してって頼まれたんだよね。」
アハハハーと笑いながら、さっき貰っていたマドンナの手作りチョコを後輩君に差し出し、反対の手も“それ寄越せ”と言わんばかりに差し出した。
「えっえっ、それ、俺にスか!?」
いつも冷静な後輩君が顔を真っ赤にして喜びながら、チョコに貼ってあった付箋の手紙を読むと、
“次期生徒会長さんへ。来年度、弟が生徒会に入ると思うからよろしくね!(賄賂)
ps:ホワイトデーは高校合格祝に、二人でご飯行きたいな!またあとで連絡するね!(^^)マナより”
(マナ=マドンナ)
と書いてあり、後輩君は、遊ばれてるのか本気なのかの狭間で悩んで雄叫びをあげながらカタカタと震える手で携帯を触っていた。
多分マドンナに連絡を取っているんだと思う。
挙動不審なのが可愛くて笑っていると、輝が不満そうな顔して私の手を掴んだ。
「美琴がくれるチョコ、楽しみにしてたんだけど…食べちゃうなんて。」
こんなにムスッとした顔の輝は初めて見るから、驚いて、“ごめん”としか言えなかった。
だってよく考えたら、マドンナが輝のこと好きだって勝手に早とちりしたし、そもそも私は別に輝のことなんとも思ってないし彼氏彼女でも無いのに悲しいとか図々しいし、
ほんと、この感情、よくわかんない。