生物くんと、私。
ん?

待って。

〝それ以上泣くと余計にブサイクになるぞ〟って言った?

私のこと、知ってるってこと?

確かに名前は教えたけど。

生物くんのこと、見たことあるかもしれないってこと?

「ね、ねぇ。生物くん。」

「まだ何かあんのか?」

「私の事、知ってるの?」

「は?」

「私の事、見たこと…はあるか、私の事、知ってるの?」

「そりゃあな。同じ学校なんだから知ってるだろ。」

「え、ずるい!生物くんだけ知ってて私なんにも知らないよ!」

「んなもん知るか。ほら、早く帰れ。」

「帰るよ。あ、一緒に帰ろうよ!」

「やだ。最初の約束忘れたのか。」

「あの顔は見ないってやつ?」

「そ。」

「いいじゃん、帰ろうよ。」

「やだ。」

「ケチ!」

「ケチで結構!さっさと帰れ。」

「ちぇっ。」

鳴りもしない指パッチンをして、悔しさを表現したけど生物くんからは見えなかったんだ。

するだけ損じゃんか。

「じゃあ、またね。」

しぶしぶ重い腰を上げる。

「おう。また明日。」

一緒に帰りたかったなぁ。

〝チンチロチンチロ〜♪〟

あれ、スズムシが鳴いてる?

スズムシって夜に鳴くものじゃなかったっけ?

「スズムシくん、鳴く時間間違えてるよ?」

クスッと笑いながら言葉の通じない、どこにいるのかも分からないスズムシに話しかけてみた。

スズムシの音色ってこんなだったんだ。

生物くんも、聴いてるかなぁ。
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