朧咲夜4-朧なはなの咲いた夜-【完】
吹雪さんの昼食の注文を受けて、材料を取るために龍生さんは一度奥へ入った。
「ひかるさんて、もしかしてな龍生さんのお祖父さんですか?」
笑満が首を傾げて問う。
「まさか違うよ。あの傲岸不遜なじいさんがそんな可愛い名前してなかったよ。三宮光子(さんのみや ひかるこ)――龍さんの婚約者だった人」
婚約者。
「あ……」
在義父さんの相棒として、生まれた時から私の記憶にいる龍生さん。
思い出す名前と面差しがあった。……写真でだけ、だけど。
「婚約者さん、いたんですか?」
笑満が訊くと、吹雪さんは「うん」と肯いた。
「結婚前に事故死されたんだ。お腹の子も一緒に」
「―――」
笑満が軽く息を呑んだ。
……私は、亡くなられたことだけは知っていた。