朧咲夜4-朧なはなの咲いた夜-【完】


吹雪さんの昼食の注文を受けて、材料を取るために龍生さんは一度奥へ入った。


「ひかるさんて、もしかしてな龍生さんのお祖父さんですか?」
 

笑満が首を傾げて問う。


「まさか違うよ。あの傲岸不遜なじいさんがそんな可愛い名前してなかったよ。三宮光子(さんのみや ひかるこ)――龍さんの婚約者だった人」
 

婚約者。


「あ……」
 

在義父さんの相棒として、生まれた時から私の記憶にいる龍生さん。


思い出す名前と面差しがあった。……写真でだけ、だけど。


「婚約者さん、いたんですか?」
 

笑満が訊くと、吹雪さんは「うん」と肯いた。


「結婚前に事故死されたんだ。お腹の子も一緒に」


「―――」
 

笑満が軽く息を呑んだ。


……私は、亡くなられたことだけは知っていた。

< 127 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop