朧咲夜4-朧なはなの咲いた夜-【完】


「非道いなあ、龍生。光子のご家族への挨拶にも付き合った幼馴染に言うかな」


「おめーが勝手についてきたんだろ! ひかるが怯えて大変だっただろが!」


「………」
 

あははーと笑う在義さんに、龍さんが声を荒らげた。店内の客、全員の肩が跳ねた。


百戦錬磨の先輩たちが! 俺、戦慄。
 

龍さんの恋人で婚約者だった三宮光子さんが、在義さんに怯えて――畏怖していたのはふわっと聞いた話だ。


……自分たちは物心ついた頃から環境が普通ではなかった。


それゆえか、普通の感覚に鈍い。


当たり前じゃないことを簡単に受け入れてしまう。


在義さんの娘たる咲桜ちゃんは、その感性が飛び抜けて鈍く感じる。


じゃないとりゅうみたいな存在、簡単には抱きしめられないだろう。
 

光子さんは普通だったんだろう。


運動神経がよく、若干行動力が並外れていたようだけど、一般の家庭に生まれて、特筆するような事故も病気もなく育ち、龍さんに出逢い。


――絆のように、普通の子だった。


……光子さんは在義さんを「怖い」と言ったそうだ。


……絆は「在義様」とか言うけどさ。


異様に慕っているので、少しだけもやっとするけどさ。


それが、龍さんをすきになるに止まった光子さんと違い、俺をすきになってくれて法律家となることを志した絆だからこそ、とわかっていても。

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