龍使いの歌姫 ~卵の章~
「………」

姉を知っている人がいたことに、レインは驚いた。

ティアナは、他の家族のことも友人のことも話さなかった。

一度だけ、何故父と母がいないのかを聞いたことがあったが、姉は悲しそうに目を伏せて答えなかった。

だから、それ以上は何も聞かなかった。

それに、レインもティアナとクックレオがいればいいと思っていたから、聞かなくていいと思ったのだ。

「君は、龍の谷に行こうとしていたみたいだけど、今はまだ早い」

「?何が?」

レオンの言っている意味が分からず、レインは首を傾げる。

「……龍が卵から生まれるのに、どれくらいかかると思う?」

「……」

レオンに尋ねられ、レインは首を振る。全く分からないのだ。

「早くて一年」

「!そんなに?!」

今日明日で生まれるものかと思っていたレインは、ギョッとした顔でレオンを見る。

だが、更に驚くことを言われた。

「ただし、竜の子供の場合はね。竜の寿命は短くて、五十年しか生きられないから、生まれるのも早い方。けれども、龍の谷にいるような龍は寿命が長いから、生まれるのも遅い。……約十年かかる」

「………」

開いた口が塞がらないというのは、こういう時に使うための言葉だろう。

レインはポカーンと口を開けていた。

「ああ、でも。この子は特別だから、後三年したら生まれると思うよ。今はまだ不完全だから」

「三年………」

一年でも長い、けれども十年はもっと長い。一年より長いと思うべきか、十年よりも短いと思うべきか。

レインは頭を抱えて唸る。出来れば、早めにどっちの種類か知りたいので、頭が痛くなる。

「……提案なんだけど」

「うー………え?」

頭を押さえ込んでいたレインに、レオンの柔らかな声が響く。

「その子が生まれるまで、ここに住まない?」

「……え?」

レインは再びポカーンと口を開けた。
< 31 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop