龍使いの歌姫 ~卵の章~
「ここに?」

「そう。その子が生まれるまで!衣食住きっちり保証するし」

どうかとこちらを見るレオンに、レインは目を伏せた。

「………」

自分には帰る所も住む所もない。もし、龍の谷に行ってティアをお願いしても、その後のことは何も考えていなかった。

目の前のことに一生懸命で、その後のことを考えられていなかった自分には、正直レオンの提案は有難い。

けれども、知らない人。それも赤の他人に無償で甘える資格などあるだろうか?

ティアナからは、他人に迷惑をかけるようなことはしてはいけないと、小さい頃から教わってきた。

レオンはきっといい人で、とても優しい人だろう。ティアナのことも知っているようだ。

だが、家族でもなければ友達でもない。今日会ったばかりの他人だ。

そう思うと、素直に頷くことなど出来ない。

「……私、お金もありません。帰る所も、家族も……いません……私が渡せるものは……ありません」

ティアも姉が残した横笛も、どちらもお金の代わりになんて出来ない。

ギュッと服の裾を握り、レインは俯いた。

そんなレインを見て、レオンは困ったように眉を下げる。

レオンは最初から、レインをここに置くつもりで拾ってきた。それは、レインがティアナの預かり子だからだ。

だが、ティアナの教育のせいか、見た目よりもレインはしっかりしている。

他人である自分に、甘えてはいけない。迷惑をかけてはいけない、そう思っていると分かる。

もしも、レインがお金を持っていたら、素直に頷いただろう。だが、無一文ではどうしようもないと落ち込んでいるのだ。

子供らしく、大人に甘えることができない。そんなレインの姿は、幼い頃のティアナにそっくりだ。

(血が繋がっていなくとも、君はこの子の中でちゃんと生きているんだな)

ならばと、レオンは思い付く。無償で置いてもらうのが嫌ならば、置いてもらう理由―つまり条件を付ければいい。

「レイン。こうしようか」

「?」

レインが顔を上げると、レオンは小さく笑う。

「君が僕の弟子になる。そして、僕の手伝いをしてもらう。つまり、君がここで働く代わりに、僕は君に住む所と食事を提供する。対等な取引だと思うけど、どうかな?」

「!」

レインはすぐに悟った。レオンが、自分がここに住める理由をくれたのだと。

「………よろしくお願いします!」

床に両手をつき背筋を伸ばしてから頭を下げる。

「こちらこそ、よろしくね」
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