龍使いの歌姫 ~卵の章~
『ギャオオオン!』

断末魔の悲鳴と共に、竜の首が落ちる。

「………」

黒い髪に青い瞳の青年は、まるでカラクリ人形のように、無表情に竜の首を切り落としていく。

むせかえる鉄の臭いにも、顔を歪ますことなく。ただひたすら、腕を振り下ろした。

「竜騎士!」

「……姫様」

竜騎士の後ろからやって来たのは、白い髪に赤い瞳の少女。

月白国、第一王位継承者―名をセレーナと言う。

「このような所へ来てはいけません。貴女様の身が穢れますゆえ」

青年は少女にひざまずくと、右手を左胸に置く。

それは、主に心臓を捧げている証。

「ねぇそんなことより、リトを見なかった?城に来てると聞いたんだけど」

「リト様なら、龍王様に謁見されていると聞きました」

「お母様の所?……私の婚約者なのに、私を蔑ろにするなんて」

ぷくっと頬を膨らませるセレーナを、竜騎士はただ静かに見返す。

この国をいずれ背負う少女は、とても無邪気だ。

無邪気と言うよりも、普通の子供より子供っぽいと言うべきだろう。

気に入らないことがあると、癇癪(かんしゃく)を起こして泣きわめく。赤ん坊がそのまま大きくなったような存在だ。

そんな娘が王位を継ぐ。何故なら、彼女しか王位を継げる者がいないからだ。

この国は初代龍王が少女だったから、女が王という訳ではない。何故なら男の龍王も、歴史の中に存在しているからだ。

セレーナしか後継ぎがいない。だが彼女が王位を継げる一番の理由は、彼女の容姿だ。

この国の王族には、まれに白い髪と赤い瞳を持った子供が生まれ、その子供は龍を操る力を持つと言われていた。

そのため、男でも女でも、初代龍王と同じ容姿に生まれた場合、無条件で王位を継げるのだ。

つまり、遺伝はほとんど関係ないと言えるだろう。

月白国王家の一族の殆どは、髪が白いだけで、赤い瞳を持つ者はいなかった。

だが、前代の龍王に男女の双子(つまり、今の龍王とその兄)が生まれた時、濃い血の中で生まれる子供が、初代と同じ姿に生まれるかもしれないという実験のため、その二人を交わらせたことがあったらしいが、生まれたのは赤い髪の子供だった。

だが、赤い髪は忌み子の証であり、この国を滅ぼす存在として嫌われ、その赤ん坊は殺された。

(だが、何者かに拐われたという話も聞いた)

セレーナにとっては、父親が違う姉か兄だ。

(……同じ子供でも、こうも違うものなのだな)

竜騎士は、幼い少女を思い出す。ただの平民であるあの少女の方が、余程大人びてるように思えた。

そこで、少女の容姿を思い出した。リンゴのように赤い髪。

誰が見ても、すぐに忌み子と分かる。もしやと一瞬仮定が浮かぶ。

(……まさか……な)

頭の中に浮かんだ仮定を振り払うと、竜騎士はセレーナに声をかける。

「さぁ、戻りましょう」

「……分かったわ。リトったら、会ったらただじゃおかないんだから!」

ぷんぷん怒りながら歩いていくセレーナを見ながら、この国の未来が心配になる。

だが、少女がもう少し幼い頃、殺されそうだった自分を助けてくれた。

そして、助けられた恩を返すため、少女に絶対の忠誠を誓ったのだ。

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