龍使いの歌姫 ~卵の章~
冷たい岩で囲まれた洞窟には、龍達がひしめき合っている。

『神龍の力は弱まりつつある』

『後継者が必要じゃな』

『だが、人間のために龍が犠牲になる必要などなかろう?』

洞窟の中に響く、様々な声。

話の様子から、何かの会議をしているのだろう。

『じゃが、神龍がいなければ、この国は持たん』

『人間を根絶やしにすればいいだろう』

『人間が消えた所で、何も変わらんよ。それに、人間が何もかも悪いわけではなかろう?』

『そうじゃな。ここにも人間は、おる』


人が踏みいることは出来ない龍の谷。結界のお陰で普通の人間には龍の谷を見ることが出来ず、山の上から見ても、普通の景色が広がっているだけだ。

龍の谷に入れるのは、清からな心を持った者。または龍に認められた者。

そして、赤い髪の人間と白い髪の人間だけだった。


『兄貴ー?』

「……ここだ」

『何してんだ?』

龍の谷の奥深くには、果物の木と花畑がある。

リンゴにかじりつきながら、リンゴの木の枝に座る少年の元へと、銀色の龍がやってきた。

「見ての通りリンゴを食べているが?」

『兄貴、リンゴ嫌いだったよな?兄貴と同じ赤い色だから』

龍の言葉に、少年は視線を反らす。

「たまには食べてもいいかと思っただけだ」

『ふーん……ハッ!まさかあのチンチクリンが原因じゃ―ないのは分かってる!分かってるから槍どけて下さいお願いします!!?』

無言で槍を鼻先へと突き付けられ、龍はペコペコと頭を下げる。

(……あいつ)

もう会うことは無いだろう。聞きたいことは沢山あったのだが、それはもう叶わない。

何故自分と同じ、髪が赤いのか、何故卵を持っていたのか、何故あんなに必死だったのか。

「………」

考えるだけ無駄だと思い直すと、木へと背を預ける。

所詮人間。自分とはもう関わりのない相手だ。

『貴方だってその愚かな人間でしょう?!』

少女の言葉が、少年の胸に刺さった。そう、どんなに願っても、龍にはなれない。

人間でしかないと、嫌でも少年は分かっている。

『なぁ兄貴?』

「何だ?」

『悩みごとがあるならさ、おいらに話してくれよ。おいらは兄貴に育ててもらった。兄貴がおいらの父ちゃんで兄ちゃんなんだ。だから、力になりたい』

「特に悩みはない……だが」

少年は近付いてきた龍の鼻を撫でる。

「……お前は僕の弟だ」

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