龍使いの歌姫 ~卵の章~
「はい、プレゼント」

「わぁ!横笛だ!」

ティアナから渡されたのは、手の平より少しだけ大きい、木で出来た横笛だった。

「これはね、昔ある子から貰ったの」

「?じゃあ、姉さんの大切な物でしょう?貰ったら悪いもん」

横笛を押し返そうとすると、ティアナは柔らかく微笑んだまま首を横に振る。

「これは、貴女のだから。貴女が持っていていいのよ」

つまりは、もうレインの物だと言っているのだと思ったレインは、大切そうに横笛を抱き締める。

「ありがとう!」

「……レイン。今日はなるべく遠くまで、薬草を探してちょうだい」

「?……うん」

何故遠くまで行くのだろうかと、レインは首を傾げる。薬草ならばすぐ近くでも採れるのに。

「なるべくゆっくりね。せっかくだから、沢山遊んでらっしゃい。……そしたら、貴女に薬草の煎じ方を教えてあげるわ」

「!本当?!」

レインは、ティアナのような薬剤師になるのが夢だった。だが、ティアナは二言目には「貴女が大人になったらね」と言うだけで、薬草の見分け方を教えても、煎じ方は教えてくれなかった。

つまり、大人と認められたのだろうか?

「ええ。今夜からでも、教えてあげるわ!」

「よろしくお願いします」

レインは背筋を伸ばしてから、床へと両手を付いて頭を深く下げる。

この国での、正式な挨拶で、レインはティアナに礼儀作法を、徹底的に叩き込まれていた。

「……さ!行ってらっしゃい!」

「行ってきます!」

レインは元気よく手を振って、家を出ていく。すると、ティアナの瞳から、一筋の涙が溢れた。

「時が経つのは、本当に早いわね。……そろそろ、支度をしなければ」

ティアナは、立ち上がると、棚の奥を漁った。

(……最後まで、側にいれなくて、ごめんね)

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