クールな上司は確信犯
一目惚れ
課長に呼び出された岡崎有希は、言葉を失った。
「変なタイミングで悪いんだけど、岡崎さん、来月から人事部へ加勢に行くことが決まったからよろしくね。」
有希は総務部に所属する社会人3年目のまだ若手だ。
総務部の仕事も一通り覚えて、ちょうど仕事が楽しくなってきていた。
そこへ人事異動である。
加勢ということは、所属は総務部のまま、人事部の仕事をするということだ。
初めての人事異動。
緊張と不安で胸がドキドキする。
そしてもうひとつ。
人事部には有希の憧れである和泉課長がいる。
まさか和泉課長の部下になれる日がこようとは。
嬉しくて顔がにやけそうになるのを咳払いで誤魔化した。
人事部の和泉は、同期の中で一番早く出世した超エリートだ。
30歳にして課長に抜擢され、今年度から人事部の課長を務めている。
頭がよくて背も高くてかっこいい。
銀縁の眼鏡が優秀さを際立たせている。
だが、その容姿とは裏腹に、仕事に厳しくいつも無愛想。
笑った顔を見たことがある人はいないとまで言われている。
ひどく素っ気なくて、話し掛けづらい、怖い、といった印象を持たれているらしかった。
「岡崎さん、人事部へ加勢なの?」
「うわ~、頑張ってね。」
同僚たちは皆可哀想な目で見てくる。
有希が和泉の下に就くことに、同情しているのだ。
皆は知らないんだ。
和泉課長の微笑む顔を。
眼鏡の奥の瞳がとても優しくなるのを。
とっても素敵なのになぁ。
有希は返事に困って、適当に「うん」と答えておいた。
有希が和泉に初めて出会ったのは、就職試験の面接の時だった。
ビルの入口がわからなくてウロウロしているときに、声をかけてくれたのが和泉だ。
「もしかしてビルの入口を探しているのか?」
「は、はい…。」
「ここ、分かりづらいだろう。こっちだ。」
そう言って、ついてくるように促す。
案内された場所は本当に分かりづらく、和泉がいなかったら見つけられなかったかもしれない。
「ご親切にありがとうございました。」
丁寧にお礼を言うと、
「一緒に働ける日を楽しみにしている。」
と言って、有希の頭をポンポンと撫でた。
その時に和泉がふっと微笑んだ顔は、とても優しくて綺麗で、今から面接だということを忘れそうになってしまうくらいドキッとした。
この会社の人だったんだ。
名前わからないけど…、受かったらまたあの人に会えるかな?
そう思いながら望んだ面接。
有希の中で忘れられない思い出だ。
きっと和泉は有希のことを覚えていないだろう。
だけど有希はずっと気になっていた。
入社後配属になった総務部に、和泉の姿はなかった。
しばらくは仕事を覚えることでいっぱいでまわりが見えず、和泉が隣の人事部にいることに気付いたのはずいぶん経ってからのことだった。
見つけたときの心の震えようは、何とも言いがたい。
たぶん私は和泉課長に、一目惚れをしたんだと思う。
それは憧れに近い一目惚れ。
「変なタイミングで悪いんだけど、岡崎さん、来月から人事部へ加勢に行くことが決まったからよろしくね。」
有希は総務部に所属する社会人3年目のまだ若手だ。
総務部の仕事も一通り覚えて、ちょうど仕事が楽しくなってきていた。
そこへ人事異動である。
加勢ということは、所属は総務部のまま、人事部の仕事をするということだ。
初めての人事異動。
緊張と不安で胸がドキドキする。
そしてもうひとつ。
人事部には有希の憧れである和泉課長がいる。
まさか和泉課長の部下になれる日がこようとは。
嬉しくて顔がにやけそうになるのを咳払いで誤魔化した。
人事部の和泉は、同期の中で一番早く出世した超エリートだ。
30歳にして課長に抜擢され、今年度から人事部の課長を務めている。
頭がよくて背も高くてかっこいい。
銀縁の眼鏡が優秀さを際立たせている。
だが、その容姿とは裏腹に、仕事に厳しくいつも無愛想。
笑った顔を見たことがある人はいないとまで言われている。
ひどく素っ気なくて、話し掛けづらい、怖い、といった印象を持たれているらしかった。
「岡崎さん、人事部へ加勢なの?」
「うわ~、頑張ってね。」
同僚たちは皆可哀想な目で見てくる。
有希が和泉の下に就くことに、同情しているのだ。
皆は知らないんだ。
和泉課長の微笑む顔を。
眼鏡の奥の瞳がとても優しくなるのを。
とっても素敵なのになぁ。
有希は返事に困って、適当に「うん」と答えておいた。
有希が和泉に初めて出会ったのは、就職試験の面接の時だった。
ビルの入口がわからなくてウロウロしているときに、声をかけてくれたのが和泉だ。
「もしかしてビルの入口を探しているのか?」
「は、はい…。」
「ここ、分かりづらいだろう。こっちだ。」
そう言って、ついてくるように促す。
案内された場所は本当に分かりづらく、和泉がいなかったら見つけられなかったかもしれない。
「ご親切にありがとうございました。」
丁寧にお礼を言うと、
「一緒に働ける日を楽しみにしている。」
と言って、有希の頭をポンポンと撫でた。
その時に和泉がふっと微笑んだ顔は、とても優しくて綺麗で、今から面接だということを忘れそうになってしまうくらいドキッとした。
この会社の人だったんだ。
名前わからないけど…、受かったらまたあの人に会えるかな?
そう思いながら望んだ面接。
有希の中で忘れられない思い出だ。
きっと和泉は有希のことを覚えていないだろう。
だけど有希はずっと気になっていた。
入社後配属になった総務部に、和泉の姿はなかった。
しばらくは仕事を覚えることでいっぱいでまわりが見えず、和泉が隣の人事部にいることに気付いたのはずいぶん経ってからのことだった。
見つけたときの心の震えようは、何とも言いがたい。
たぶん私は和泉課長に、一目惚れをしたんだと思う。
それは憧れに近い一目惚れ。
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