クールな上司は確信犯
大人げない
最近和泉の評判がいい。
評判がいいというか、「話し掛け易くなった」とか「意外と怖くない」とか、そんな感じだ。

有希はその話を耳にするたび、嬉しくなった。
好きな人のイメージがアップするのは誇らしいことだ。
有希から見ても、仕事中の和泉は確かに表情が柔らかくなったと感じていた。

来客対応のため、給湯室へコーヒーの準備をしに行く。
有希は入口でピタリと足が止まった。
中には、和泉と人事部の女性社員が二人っきりで話をしている。
どうにも入りづらくて、有希は一旦自席へ戻った。

モヤモヤする。
給湯室で和泉と二人っきり。
それは自分だけの特別なものだと思っていた。
もちろん、勝手な考えだとは思う。
だけど今までこんなことはなかった。
和泉が女性社員と談笑するなどということは、見たことも聞いたこともない。

和泉が他の誰かと話すのはいいことだ。
そうやって、和泉は本当は優しい人なんだということをわかってもらえる。
それは有希も望んでいたこと。

なのに。
何か嫌だ。

和泉と有希が付き合っていることは、特に公にしていない。
していないからこそ、余計にモヤモヤする。
誰かと仲良くしている姿は見たくなかった。

わかってる。
これは嫉妬だ。
大人げなく、嫉妬しているんだ。

有希は時間を確認してもう一度給湯室へ向かった。
あの二人がいてもいなくても、来客対応のためのコーヒーを作らなければならない。

意を決して向かった給湯室には、もう誰もいなかった。
有希はほっと胸を撫で下ろすと共に、寂しさを感じた。

ここに、和泉課長だけ、いてほしかったな…。
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