隣 の セ ン セ イ 。
凌介「───で、



どうしたの」


雨音「…どうしたの、って言われても…」


凌介「困る?」






少し間を開けて、すこしだけ頷いてみた。





5月下旬。



梅雨入り前の生温かい風が、私達の間をすり抜けていった。





凌介「一人で抱えるよりは、俺に分けたほうが楽じゃない?」


雨音「…どう、話したらいいのかわからないので…」


凌介「考えるな、ぶちまけろ」


雨音「……」


凌介「ゆっくりでいいから。ちゃんと聞くから。」


雨音「……、彼氏……あ、元カレ、に


騙されてて…」


凌介「うん」






紡木さんは、




驚くほど静かに




私のつたない言葉で紡ぐ話を聞いてくれた。







────






凌介「そっか……


じゃあ浮気はされてなかったんだ?」


雨音「……はい、」


凌介「…桜井さんは、その彼…元カレに騙されたって言ってるけど、


きっとその人なりの優しさだったんじゃないかなー。



…俺だったら、そう思う。」


雨音「優しさって…」


凌介「いや、ほんとの気持ちは本人にしかわからないよ?



でも、騙されたってマイナスに考えるんじゃなくて



自分のことを考えてくれたんだなって


そう思うかな。



ましてや、その人は桜井さんのことをよく知ってる。



だったら、



プラスに考えたほうが良くない?」






私の気持ちが分からないから、



そんなこと言えるんだ。





大切な人に騙されて、




浮気より辛い。





それならいっそ、付き合っててくれればよかったのに。






凌介「俺は桜井さんの気持ちを分かってあげられない?」


雨音「え…」


凌介「…知り合ってまだ数日だもんね。




俺もさ、彼女いるんだけどさ、」








まるで当たり前のように言われた。





彼女、いたんだ、紡木さん……。








凌介「最近良く、ある人の話をするの。



俺じゃない、他の男の人。




最初はもちろん知ってたけど、


彼女が一番思ってくれてるのは俺だって知ってるから、




なんていうのかな、……ううん、、」






言葉を詰まらせた紡木さん。




きっと彼なりに私を慰めようとしてくれているんだろうけど。





私には彼の言葉が、




やっぱり何も分からない人の話にしか聞こえなかった。
< 14 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop