イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる
「はい、甘めのレモネード。
町田の話では、熱中症だって聞いたから。
これ飲んだら、少しは気分がすっきりすると思うよ。
でも、加恋…
本当に熱中症か…?」
トオルさんは真剣な話をする時に、私の事を加恋って呼ぶ。
普段の甘々の加恋ちゃんという呼び名からのギャップに、私はその度に胸がときめいてしまう。
でも、今は胸はときめきながら、でも、切なさも合わさって涙が溢れ出す。
「トオルさん… どうしよう…
私は違うんだと思うんだけど、トレーナーが念のために検査してみた方がいいって」
「け、検査??」
私は主語を省いた事を後悔した。
だって、トオルさんの驚いた顔は、癌か何か怖い病気を想像しているのが一目瞭然だから。
顔面蒼白とはこの事だ。
私はなおさらその事柄を訂正する勇気をなくしてしまった。
でも、ちゃんと伝えなきゃいけない…
「あ、あの、私のバッグの中に小さな紙袋が入ってるから、それを見てほしい…」
私はバッグの中で出番を待っている例の物を、トオルさんに押し付けた。
だって、検査をする勇気をいまだ持てずにいたから。