イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる
その日は、加恋のお父さんとお母さんがお見舞いに来ている日だった。
予定日まではまだ三日あったから、俺も加恋もご両親も油断していた。
俺がお父さん達にお茶を淹れるためキッチンに立っている時に、トイレにいた加恋の悲鳴が聞こえた。
「お母さ~~ん、早く来て~~~」
その声に驚いた俺達は、特に加恋のお母さんは、加恋のいるトイレに飛んで行った。
真っ青な顔で出てきたお母さんは、俺にすぐタクシーを呼んでと言った。
「破水しちゃったみたい。
ちょっと順番が逆だから、急いで病院へ連れて行かないと」
俺はもう頭が真っ白だった。
タクシー?
あ、そういえば、緊急のためにって、冷蔵庫の横に電話番号が書いてあったっけ…?
頭が回らない…
足がガクガクして心臓が張り裂けそうだ…
そんな俺を横目で見ながら、加恋のお父さんが迅速にタクシーを呼んだ。
同じ男で、同じ家族なのに、俺って本当に情けない…
加恋はご両親に抱きかかえられながら、タクシーへ乗り込んだ。
多分、相当怖いのだろう。
俺を見ても何も言えず、ただシクシク泣くだけだった。
「トオルさんは加恋の準備している荷物を持って、後から車で来てね。
大丈夫だから…
初産は生まれるまでに十時間以上はかかるから、慌てなくていいからね」