イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる
俺は立ち合う事はしないと決めていた。
それは、加恋と一緒に決めた事だ。
まずは血が苦手だし、加恋の苦しむ顔はもっと苦手だから。
隣の分娩室の様子がモニターでも見れるようになっていた。
でも、俺はそれさえも拒否した。
とにかく廊下に出て、ただただ神様に祈った。
え? 俺って神様なんて信じてたか?
なんて、つっこみを入れる元気もない。
ただただ、加恋と赤ちゃんが無事にこの出産を乗り切ってほしい、ただそれだけだった。
「トオルさん、トオルさん、生まれましたよ~」
遠くから聞き慣れた声がする。
ヤバい、俺はうかつにも寝てしまっていた。
その事実は今のところ誰にもばれていない。
俺は心臓をバクバク鳴らしながら、加恋の待つ分娩室へ向かった。
分娩室へ行っても誰もいない。
加恋たちは、隣にある自分達の部屋へもう移動していた。
「か、加恋、大丈夫だった…か?」
俺はその光景に目を奪われた。
美し過ぎる加恋は、更にマリア様のように美しく光り輝いている。
そして、その隣に横たわる真っ白い産着を着た赤ちゃんは、加恋以上に輝きを放っていた。