誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
少し時代がかった口調で、瑞樹はそういうと、さらっと手酌でワインをつかみ、瑞樹のグラスにそそぐ。
「お前らしくないな」
「いや、だってさ……って、俺じゃないって」
「ああ、知人男性の話だったか。そうだった、そうだった」
瑞樹は安い芝居にとりあえず最後まで付き合うつもりのようだ。
閑の言い訳にうんうんとうなずいたあと、その秀麗な顔を閑に寄せて、ささやいた。
「俺は心底女に惚れたことはないが、仮に――本気になったら、容赦しない」
「よっ……容赦!?」
少し物騒すぎないかと思ったが、この日本有数の金融系グループの、御曹子である彼の言葉は、本物だ。
幼いころから、常に人の上に立つことを教えられ、苛烈な生存競争を生き残ってきた瑞樹が本気になれば、さぞかし熱烈に違いない。並大抵の女性では、受け止めきれない気がする。
(もし今後、瑞樹に想いを寄せられる女性が出来たとしたら……ちょっと同情するな)
閑はそんなことを思いながら、肩から少しだけ力が抜けるのを感じていた。
(確かに瑞樹の言う通りだ。俺、好意をチラチラ見せながら、小春ちゃんの反応ばっかりうかがってたな)